第六品目 袖振り合うも多生の縁〜チャーハン二品
「ねぇ、麗二相談が…」
「嫌だ」
会社の同僚の良人難田が話しかけてくる。皆に「良い人なんだけど…」と、好かれてるのかそうでないのかよく分からないポジションの三十歳、男。
その彼が相談があるという。何故俺なのか。彼が今にも倒れそうなくらい憔悴しきっていたら直ぐに話を聞いてやるが、全くそうじゃない。むしろ…。
彼は、「暇だから」という理由で、人の残業まで代わってあげ、普段はスーパーのお惣菜や冷凍食品、コンビニ弁当しか食べないので、肌は荒れに荒れ、不健康に太りに太りまくっていた男。
だが最近は、肌が綺麗になってきて、健康的に痩せてきている。女でもできたから惚気話か。他の従業員からもアタックされまくって困るのも時間の問題だろう。彼は、本当に「良い人」なのだから。
「麗二冷たいよ」
「嫌だっていったらやなんだ」
俺は、難田を振り切って、家に帰るついでにパトラッシュを攫いに行った。
★★★
数日後。
さらに痩せてイケメンになり、肌が韓国アイドルじみてきた難田が出勤してきた。
「おはようございます」
難田に挨拶を返そうとして、俺は言葉に詰まった。
難田の背中に何かいる。…女? おかっぱ黒髪の美しい女が難田の背中に手を掛けて、べったり張り付いている。しかも、その女としっかり目が合った。オニキスのような綺麗な目が怖かった。
(悩みはこれか? ガッツリ幽霊に憑かれてるじゃないか…)
「…難田肩凝り酷くないか?」
「…なんで分かるんだ?」
「悩みは金曜日に、◯シロー奢られるで手を打ってやってもいい」
「…上から目線だけど助かるよ。◯シロー安いし」
★★★
そして金曜日。
俺は、難田に◯シローを奢ってもらい、寿司を貪り食いながら話を聞いていた。
…あの女も一緒に。
「麗二さ、霊感強い上に、魔法万能なんでしょ。俺の肩凝りの原因、見えてるよね」
「…」
「お前の後ろに美人な女の霊が張り付いてる。悪い霊では無さそうだが…」
祓われると思ったのか、霊が威嚇してきた。…寿司食べるのを邪魔すんな。
「え? 女の霊? 男でも良いけど。美人なの? 嬉しいなぁ。俺、霊感ゼロなんだよね。彼女とコミュニケーションが取りたいんだけど。…見えなくて」
…祓われなさそうと、分かった途端、幽霊は俺にも醤油を取ってくれたり、食べ終えた皿を片付けてくれたりと、細々と働き始めた。
★★★
その後、難田の家に移動した。
「…すんげぇピッカピカ」
難田の家は、1DKの小綺麗なマンションだった。
家中ピッカピカに磨き上げられており、幽霊が胸を張っていた。
「家事が得意で美人。これからも仲良く共存した方が良いだろう」
「本当に!?」
幽霊は、嬉しそうに笑い、難田は顔を紅潮させた。
幽霊は、和食が得意というか、和食しか知らんようなので、二人にチャーハンを作ってあげることにした。チャーハンと揚げたての唐揚げは最強だからな。
俺は、難田がこの幽霊だけが見えて、しっかりコミュニケーションを取って仲良くやれるよう願いを込めて作った。
まずはレタスチャーハン。レシピは、もちろん◯ュウジ。
フライパンを温めて油を入れて豚こま肉を炒める。溶き卵を入れて半熟になる前にアッツアツのご飯を投入。アッツアツのご飯ってとこがポイント。
味の素、塩、オイスターソース、酒で味付けしたらレタスを入れて炒めて、胡椒、五香粉を入れたら完成。
◯ュウジのオリジナルレシピでは海老を使ってるけど、海老高いから。(笑)
出来立てを二人に勧める。幽霊も、食べて良いのか視線で俺に聞くが、大きく頷く。
「! 高級中華料理屋のチャーハン! 旨!」
五香粉がポイント。パラパラの美味しいチャーハンができるところも、◯ュウジの凄いところ。
二人が貪り食ってる間に、もう一品。卵と、アッツアツのご飯を混ぜる。別のボウルで卵にナンプラーと味の素で味付けしておく。
温めたフライパンにラード(サラダ油でも美味しい)を入れたら、ナンプラーを入れた方の卵液を入れて、すぐ卵とご飯混ぜたやつを入れて炒める。
ナンプラー、オイスターソース、黒胡椒を入れたら、最後に酒で完成!
これは、◯ュウジのレシピで虚◯チャーハンとして紹介されている。
ナンプラー一個で、簡単、旨い、早い。休日よく作る一品である。
「! 海鮮の香り! 旨! 黒胡椒が良い仕事してる!」
すっかり仲良くなった俺達三人。幽霊が身の上を話し始める。
彼女の名前は、夢叶。大正時代に生きてた女の子で、母親に花嫁修業を厳しく仕込まれながら生きていたが、結婚の前日、車に轢かれたという。
十九歳。「結婚ってどうなのかしら」「女優になりたかった」と思いながら死んだので、この世に未練たらたらのまま、このマンション付近に棲みついているとか。
ある日、良人難田の家を見てびっくり。マジでゴミ屋敷だったそうだ。
あまりにもだらしなく暮らしているので、最初はイタズラしてもっと汚したが、全く気付いてもらえず。
寂しくなって、掃除をしたら凄く喜んで感謝してくれたので、次第にご飯も作ってあげるようになったとか。
独りで、叶がいない全然見当違いのところに感謝されるが、美味しそうに喜んで食べるので、楽しくなって今はほぼ毎日掃除に料理に頑張っているとか。
「…叶ちゃんさぁ、女優になりたいの?」
「え?」
「今すぐなれるかもよ」
俺は、サラダを作って叶に食べさせた。「誰にでも見える」状態にするためだ。
そして、普段は連絡を無視しまくっているモデル会社の社長に電話。夢叶ちゃんを紹介して売り込んだ。
★★★
三カ月後。
「叶ちゃんが出てるホラー映画、リアリティーがすごすぎるって評判だよ。やっぱり本物だからね」
モデル会社の社長はかなりやり手で、色んな会社を持っている。その一つに映画制作会社があるのを知っていたので、「幽霊が出るホラー映画に叶ちゃんを出してはどうか」と、俺が売り込んであげたのだ。
良人難田は、家事ができる美人の幽霊と一緒で幸せ。夢叶ちゃんも、念願の女優デビューができて幸せとか。
「ありがとう。麗二」
やっぱり、人の幸せの為に動くのは悪くない。