第11話
結局数えられないほど着替えさせられて、湊さんの手には大量の袋が。
「湊さん、半分貸してください」
さっきから何を言っても渡してくれない。
湊さんに荷物なんて持たせられないのに。
「これぐらい持てるから大丈夫」
両手いっぱいで、絶対重たいはず。
「でも重たいでしょ?私こんなにちっさいカバンしか持ってないのに申し訳ないよ。何か一つでも持たせて?お願い」
「そこまで言うなら…」
と言って渡されたのは、小さな小さな袋だった。
「こんなに小さいの…」
こんなの、持ったって意味ないじゃん、
「彩花ちゃんに重たい荷物を持たせられるわけないでしょ?」
今の湊さんは、私のこと女の子扱いしてくれる。
こんな言葉を、前の湊さんが言ってくれたらどれだけ…いや、有り得ないか。
「ありがとう、」
デート自体有り得ないことだもんね。
多分、最初で最後のデートなんだと思う。
「これだけあれば半年は大丈夫かな」
「半年…?」
これだけあれば10年…
いや、このままずっと服を買わなくてもいいんじゃないかって思ってたんだけど、
まだ十分じゃないみたいだ。
「半年経ったらまた買いに行こうね!夏のお洋服ばっかり買ったから、今度は冬のお洋服!」
「う、うん、」
冬…になっても私は湊さんの隣に立っているんだろうか。
半年後もこうして笑いあっていられるんだろうか。
今、この時間は夢みたいで、泡のように儚い。
未来を想像すると、それがすぐ崩れてしまいそうで、怖くなる。
また買いに来ようね。
そう言いかけて止めた。
だって、また同じ景色を一緒に見られるなんて、そんな未来、信じたら、泣いてしまいそうだから。
「あ、ミニスカートも買えばよかった。彩花ちゃんのスカート姿…」
「か、買いません」
反射的に否定の言葉が口をついて出た。
私がミニスカートなんて、似合うわけない。
いい歳だし、脚も出すのは恥ずかしい。
第一、そんな可愛らしい服はもう卒業したはずなのに。
「確かに、スカート姿を他の奴らに見られるのは嫌…まぁ、家で履く分には別に構わないか」
何を想像しているんだこの人は。
「…変態」
「あ、そんな引かないの。男はみんな変態なんだから!」
そんな自信満々に言われても…
「ふふ、何それ」
不思議だ。
以前の私なら、この距離感は怖かったはずなのに。
今はただ、こうして笑い合えていることが、胸を満たしていく。
もしかすると、
この人と一緒なら、自分の中の「恥ずかしい」や「苦手」も、少しずつ変えていけるのかもしれない。
でも今は、ただこうやって笑い合えるだけでいい。
それ以上は何も望まないから。