第10話
「佐藤様はこちらによくいらっしゃるのですが、その度に彩花様のお話を嬉しそうにされていました」
その度…?ここに来たのは初めてじゃないの?
「ちょ、ちょっと待ってください。こちらに来る度に私の話を…?」
「はい。彩花様がとても綺麗で美しくて、天使のようだと」
湊さんが…私のことを…?そんなはずは…
「きっとなにか勘違いしてるんですよ、」
誰かに私の話を、それも褒めていたなんてありえない。
「いえ、お越しになる度におっしゃるので間違えるはずがありません。すごく愛されてるなと羨ましい限りでございます」
湊さんが私を愛してた?
きっと何かの間違い。そうとしか考えられない。
「ドレスの他にもワンピースなどもご購入されるんです。彩花様が普段お洋服を買う時間が無いから、代わりに買ってあげるんだと仰っていました」
「ワンピース…?」
ワンピースなんて一度も貰ったことない。
まさか…
こんなこと考えたくもないけど、浮気、してたの?
あぁ、なんだ。
そういう事か。
さっき店員さんが言ったことは、私のことじゃなくて、その…
湊さんが本当に好きな人に向けての言葉だったんだ。
浮気相手の名前を出すわけにはいかないから。
「彩花ちゃん、着替え終わっ…わぁ、」
「あ、湊さん、どうですか?」
「すっごく可愛いよ。よく似合ってる」
なんて目を輝かせて言ってくれる。
嬉しいのに、嬉しいはずなのに。
「ありがとうございます」
今、私は普通でいれているだろうか。
自分の気持ちを隠すことには慣れているはず。
「よし決めた!この服全部下さい!」
「かしこまりました」
「え、湊さん、私こんなにいらないよ。あんまり外にも出ないし2着ぐらいあれば十分…」
こんなオシャレな服、買ってもきっと使い道ない。
「だめ。俺が全部気に入ったんだ。外で着ないなら家で着ればいいでしょ?」
「それでは合計で54万円になります」
54万円…!?
湊さんの財産力をを舐めている訳ではないけど、服に50万も費やすのはちょっと、
「一括払いで」
「お預かりいたします」
駄目だ。何回考えても私には贅沢すぎる。
まだ間に合うはず、
「湊さん、申し訳ないんだけど、私、こんなに高価なワンピース着れないよ」
「せっかく買ったのに?」
「今からでも返品を…」
「確か、ここのお店って返品できないんだよね〜」
まさか、それを知っててここに?
「じゃあどうすれば、」
「だから彩花ちゃんが着てよ」
「だけど…」
「あー、そうだよね。俺が買ってあげたものは着れないよね。俺のこと嫌いだってすっかり忘れ『ありがたく着させていただきます』良かった〜』
こう言ったら私がなんでも言うこと聞くと思ってる。
事実だから何も言えない。
それがまたムカつくんだけど。
「ほら次行くよ!」
次…?ちょっと待って、
「今ので終わりじゃないんですか?」
「まだまだ彩花ちゃんに似合う服が眠っているからね!次行くよ次!」
さっきは冗談で着せ替え人形なんて言ったけど、これじゃほんとにそうなっちゃうよ、
「もう、これだけでも十分すぎるのに、、」
「ほら、置いていくよ!」
「あ、ちょっと待って」
まぁ、湊さんの楽しそうなところ初めて見たし、着せ替え人形も別に悪くないか、
それに…今は何も考えたくない。
現実から目を逸らしていたかった。