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『噛ませ犬愛好家』の火の玉ストレート

「寂しいじゃないか。何も言わずに立ち尽くすなんて……あ、それとも何かい?この美しい僕ちんの顔に見惚れてるのかな?」

「気軽に触れないでいただけますか?」


 パッチーン

 ——あ、言葉より手が出ちゃったぁ……


 最初こそ、月夜家を守る為にわなわなと震え上がる私の本能を抑えていたはずだった…。


 しかし、空気が全く読めない目の前にいる『ファッキン陽山』は、傲慢かつ自意識過剰の発言をしただけでなく、私の顎を持ち上げて、自分の顔へ近づけようとしたのだ。



 その結果、今まで抑えていた本能と共に私の火の玉ストレートが炸裂してしまった。



 それでも、火の玉ストレートで終わっただけまだ理性が働いていると思う。私の『噛ませ犬(推し)』をNTRし奴隷にしてきた奴だ。


 たった今、その上、私までその毒牙にかけようとしたわけだ。平手打ちで済んだだけ、むしろ感謝してもらいたいレベルである。


 ———まじ、『ファッキン陽山』許すまじ!!!


 

「っ!?!?!?痛!?え?……な、なんで………こ、こ、こ、この僕ちんの」

「零お嬢様…!?」


 私に火の玉ストレートを受けた『ファッキン陽山』はあまりの衝撃に困惑しているらしい。


 同時にメイドの女の子も私の咄嗟の行動に驚きの声をあげているが、今は気にしない。


「こ、婚約者で侯爵家であるこの僕ちんに女の分際でふざけた真似を…!!このことは父上に絶対報告だ!!ふははははは!!それならばこんな辺鄙な月夜伯爵家は今日で終わりだっ!!」

 

 パッチーン

 ———惜しいっ!!!


『ブーン』と鳴くうるさい蝿がいたかと思ったら『ファッキン陽山』だった………。


 でも、人間は誰にでも過ちはある!!!勘違いなら、不可抗力で仕方がない!!ネバーギヴアップ!!


「き、き、貴様ぁぁ、まさか1度ならず2度までもこの美しい僕ちんの顔に」


 パッチーン


 止めようとは思っていたのに、また私の火の玉ストレート3度目が炸裂してしまった。




 ———


「ほら、奴隷!!僕ちんの友人様方へ挨拶しろ!!そして僕ちんの足を舐めろ」

「にゃ……ミーはそんなことしたくな……」

「やれ……」


『恋クリ』ではずっと健気に抵抗していた私の噛ませ犬(推し)だった。それでも、『隷属の首輪』と呼ばれる忌まわしき『恋クリ』内のアイテムで抵抗しても無駄だと悟ったのか、日に日に抵抗の力も弱まっていき………


「そろそろ、こいつにも飽きてきたからこのあたりで捨てるとするかな」

「…………ご主人様、分かりましたにゃ」


 最期はボロボロの姿となり、目には大粒の涙を流しながら笑顔で答える噛ませ犬(推し)の姿で後日談は終わりを迎えてしまった。


 ——


 その後の噛ませ犬(推し)の結末が分からないけれど、とても悲惨で見るに耐えないショックなシーンだったのは今でも鮮明に覚えている。


 そのためだろうか?『ファッキン陽山』を見ていると、健気だったあの子の——私の何よりも大切な『推し(噛ませ犬)』の悲惨な後味悪い後日談が脳裏を過るんだよ……!!


 今生こそ『恋クリ』であの子は『ファッキン陽山』はもちろん、『陽山侯爵家』にも渡さない。なぜなら、私があの子を守るからだ。


 ———せめて、あの子の分を私がこいつに殴るんだっ!!。


「気の迷いかと思っていたけど、そっちがその気なら、僕ちんの華麗な『水魔法』を…」


 ———うるさい。

 パッチーン


 1発目、2発目までは困惑していた『ファッキン陽山』だったが、3発目を受ける頃には完全に顔を真っ赤にさせて怒って魔法で脅してきた。


 当然、魔法を撃たれるよりも先に4発目の私の火の玉ストレートが炸裂した結果、徐々に目に涙を溢れさせていく。


「ぜ、ぜ、ぜ、絶対に…ゆるざないからぁぁ!!うわぁぁ」

 ———ちぇ……逃げられたか。最低でもあと5発は行きたかったのに……


 そして、最後には『ファッキン陽山』が大きな声で喚きながら、私の部屋の扉を激しく閉じ、出て行くこととなった。



 ――――――



「零お嬢様…?よろしかったのでしょうか?」

「ええ……『陽山侯爵子息』が護衛を連れていなくて良かったです」

「は、はぁ……」


 なぜかメイドの女の子に『違う!!違う!!違う!!そうじゃ!!そうじゃなーい!!』と目線で送られている気がするが、過去は変えられない。


 ———私に後悔はないからね


「それよりも、貴方の名前をもう一度教えてもらってもよろしいですか?」


 いい加減メイドの女の子の名前を知りたいと考えた私は言葉を飾るのではなく、こちらも火の玉ストレート質問をすることにした。


 ——失敗した……


 彼女は私の質問を耳にした途端、私のことを想ってくれる心配そうな表情から一変した。


 最初は困った表情をしたり、驚いたり、固まったり等百面相をしていたが、徐々に透き通る黒色の瞳端に涙を溜めている…。


「そ、そうじゃないの。え、えーと、貴方を呼ぶ時のそう……!!ニックネームみたいなのを考えてみたくて参考程度に私の認識が間違えてるのか、確認するだけですから」

「ニックネーム…!!なんと心地よい響きでしょう!!それならば、改めまして私の名前は『涼宮真里花』と申します。歳は18でスリーサイ」

「そ、そこまではいいかなぁ…」


 ——え、18!?随分と小柄な子だなぁ……正直、小学生高学年くらい歳かと思ってた……。


「ちなみに、どうして月夜家で働いているのか聞いてもいいかしら?」

「私は零お嬢様と違って平民出身ですから…。王都の学校卒業後、零お嬢様が赤ちゃんの頃から使用人を務めさせていただいております」


 ——『恋クリ』の表舞台である『王立魔法学院』は貴族や一部の才ある平民や商人の子以外通うとはできない。


 もちろん、それには理由がある。平民に魔法を教えて仕舞えば、暴動が起きる。そうなった事態に刃を向けられるのは国だ。

 

 ———とはいえ、実にもどかしいな……


「零お嬢様が気にされることではございません。出自に関しては仕方ないんです。それに、私は月夜家に拾われてとてもよかったですから」

「いつか出自に囚われることなく、魔法を学べる世界ができたら…………」

「もし、そんな世界が実現できたなら、きっとより多くの私と同じ平民が救われるでしょう。そ、それよりもニックネームについてです!!!」


 私が提案した世界にいつもとは異なり、視線を逸らし俯く真理花を見て、私は決意した。


 ——私と私の『噛ませ犬(推し)』達を救った後、残った時間があれば………革命に尽力するのはありかも……


 ……今は、それよりもニックネームについて考えるべきだ。『涼宮真里花』ね………


「よし、私は貴方のことをこれから『真里』と呼ばせてもらうわ!!」

「…………は、はい!!素敵なニックネームありがとうございます。わー、嬉しいです」


 ———なんだ、その間はぁぁぁぁぁぁ


 例えるなら、レストランであまり美味しくなかった食事の時などで、咄嗟に誤魔化す時の気まずい瞬間になるアレじゃないか!!


「それよりも、零お嬢様、本当に陽山侯爵御子息に関しては良かったのですが?」

「きっと零夜お父様達に怒られるだろうけど、なんとかするしかないね……!!」


 ———真里に指摘されるまでもなく、全然良くな……


「……零お嬢様はいつも笑顔が似合うと思いますので怒られてる姿はみたくないです」

「え……ふぇ…………」


 予想にしなかった真里の発言に思わず、変な声が出てしまう。


『ファッキン陽山』の顎クイとは比にならないほど、自分の顔が紅潮しているのが分かる。


「しくじりました……零お嬢様は想定よりウブでした。泣き落としよりも………の方が……」

「真里、先ほどから1人で何か呟いていますが、何かありましたか?」

「いいえ。零お嬢様の役に立てたなら良かったです」

「ええ、ありがとう」


 ひらひらと真里にそのまま手を振り、このまま、平和に1日を過ごせるかと思っていた時期が私にもありました。


ーーーーーー



「さて、零、説明してもらおうか」

「はい……」


 零夜お父様に直接呼ばれてしまい、応接室のような場所へと連れて行かれる。


 そこには零華お母様と零士お兄様が既に座っており、私が最後だった。


 ———流石に怒ってるよなぁ……転生して1日目でホームレスかぁ……。


 日本であれ、ば国民に自由権が付与されているため、拒否する事は簡単だ。しかし、『恋クリ』のような貴族社会で家同士の婚約の取り決めを破棄する行為は罪深い。


 本来ならば、即勘当、家格を重んじる家系ならば死罪等もあり得るレベルだ。


「確かに、零ちゃんはお転婆な子だったわ。そらでも、零ちゃんが事情もなく無為なことをするとは思えないのよ」

「そうだな。零は優しい子だ。何よりも自慢の妹だからな」


 ———あぁ………私はなんて浅はかなんだ。なんで、今世の家族を信じなかった…。


「零、そんな訳だから、まずは溢れでる涙を拭いてから話してくれるといいさ」


 最後にややため息を吐きながら零夜お父様がハンカチを貸してくれる。


「あ、ありがどうございましゅ……」

 ———またヘタレな私は噛んでしまうことになったけど、それより今は…………


 零夜お父様に感謝を述べてありがたくハンカチを使わせてもらうことにした。



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