間もなく
「さて。ひといきつく間もねえなあ」
セイテツがみあげた宙にのこる『穴』からは、また新たに、蛇のようにながく黒いものが煙のように渦をまき、出てこようとしていた。
「 ―― 《蛇》のほうが、まだよかったな」
タクアンが右目の上をかくのを、『まだ?』と、ききとがめたコウドに、スザクが刀に綴った文字をのせながら、そうだな、とこたえる。
「 ホムラだったあのばけものは、もともとは《この世》で人間だったモンだ。《常世のくに》でまたべつの妖物になってたが、まあ、おれたちは元を知ってるし、高山や将軍たちにわけてもらった《札》や《術》も、あいつが元人間だったおかげでこれだけきいた。テツがその《札》や《術》を直にアイツのくちから中にもっていったから、おおもとだった《禁術》の《土釜》に効いて、黒鹿と人間の魂がわけられたんだ。 だがよ、 ―― 」
ひかりだした刀を片手でひとふりした。
「 ―― いま、あそこから出ようとしてるモンはどうだよ?」
スザクがめでしめすそれは、ようやくかたちを成しはじめているところだった。
「 ・・・へび ・・・じゃあ、 ねえな・・・」
コウドがかたちをかえてゆくそれをめにしながら、声をうしなう。
黒く渦巻いていたものは、さきほどでてきたホムラの《腕》のように宙ににょきりと生えていた。
だが、
次にすぐおなじような二本目がもがくように穴から生え、
いまは、三本目が生えて ―― 。




