ひとつもねえ
《経》をうたうタクアンのよこで、スザクが鼻をこすり、溶けやがったか、と垂れ下がった《蛇》をみあげた。
その、溶けた黒いものが、嫌なにおいをさえ、ぼたぼたと落ちてくると、セイテツが張った氷の上で、じゅ、と音をたててきえてゆく。
カエ せ カエセ カエセ カえセ
おれ の モノだ
溶けてゆくからだの先につく、まだ力をなくしていない《蛇》の頭がゆれ、コウドに命じたのと同じ声でいう。
「てめえのもんは、ひとつもねえよ」
セイテツの声がどこからかこたえたとき、光っていた紐がみるまに締まりだし《蛇》の首が音をたててしぼられてゆき、ほそくほそくなってゆくと、ついにはこらえきれなかったように、ぶっつ、ときれて、頭は下に落ちた。
はしったスザクがそれに刀をつきたて、コウドが札をのせたクナイで囲いをつくる。
「 っぶねえなあ、おいスザク」
刀のささった蛇の頭の口がひらき、文句をいいながらセイテツが顔をだす。
坊主は刀をひきぬきながら、よけるだろ、と当然のようにこたえる。




