身をけずる
ホムラの目がぐるりと白眼をむき、顔からはなした手が、あがいているおのれの左腕をつかむと、ごぎりとひねり、根元からちぎってなげすてた。
「《穴》がひろがらないなら、身をけずろうってことか」
タクアンが綴った《経》を落ちてきた腕になげつけて、それが動き出す前に『縛り』、セイテツが出した岩のような氷にあわせてコウドが札をなげ、腕をつぶす。 塩もまかずに、つぶれた腕はちりのようになり消えたが、片腕をもぎりとり身軽になったのか、宙にある穴から、それがついに、肩から下の身をだした。
「あのときのホムラよりでかいな」
スザクが平坦な声でみたままのことをくちにしたとき、前はホムラだったものの長い右腕がふりあげられた。
とんだスザクが、しなったそれの根元に刀をたたきこむ。
ごっづ と、硬い音がしたものの、『気』を発しながら押しきった刃は通り、ながい腕が回転しながら落ちて、城の壁をこわす。
すでに抜けていた屋根がさらに音をたててくずれ、空がよくみえるようになった。
ぎぇおヲヲおおおウウウギョおおヲヲ
ホムラだったものがほえて、腕のなくなった身をゆすり、穴からさらに腹まででると、その腹まわりからは普通の人間の足が突き出るように何本も生えはじめ、つぎつぎに出てきたその足たちが溶け合うようにひとつになると、太く丈夫そうな、《黒いバケモノの脚》となった。




