9/146
『 とこよのくに 』から
あれ?知らない?とホウロクが首をかしげ、二人をみくらべた。頭の左右にすっかりはえそろった立派な角が、重そうだ。
「帝は、先に、《この世》に逃げ込んだケイテキの中身を追って、ここにきてるんだよ」
「・・・・は?」
スザクもしらなかった?ときかれた坊主も、めずらしく目をみはっている。
「しらねえ。きいたこともねえな」
「そうか、人間だと、ジュフクしかしらないのか・・・。 ―― まだ、《この世》にきみたち人間がきてまもないころに、それにまぎれるように、《常世のくに》のほうから、『逃げてきたもの』がいたんだ」
「『とこよのくに』?」
きいたことがないとセイテツはスザクをみた。
「そりゃ、経典にある『冥界』のことか?」
スザクがおもいついたようにきく。
「そうなのかなあ、ぼくはきみたちの『経典』はわからないけど。とにかく《この世》とはつながっていない、ひろい《くに》のことだよ」ホウロクは顎をかく。
「そこを『逃げたもの』を追って、おなじ《常世のくに》からきたのが、あの帝の《中身》なんだ」