今回は無理
空気を震わし耳をつんざくような声を裂けた口がまきちらし、はじけた左の腕をふりまわしていたバケモノが、とつぜん動きをとめると、残った方のながい腕の先にある、獣のような爪のついた指をひろげて、おのれの顔を、がしりとつかむ。
その指のすきまから、血走った人間の目がこちらをのぞいた。
「ホムラかよ。おい、まだシュンカをねらってんのか?」
スザクが刀をもちあげ、切っ先をその目にむけた。
おの れ まだ じゃまだて するか・・・
破裂した左の腕の先がのたうち、再生を試みようとして肉と血が泡立ちつづけているが、なかなかかたちにならない。
あのさあ、とセイテツが指先で氷の粒をもてあそびながらそれをわらう。
「今回は無理だとおもうぜ。シュンカも自分で『経』を綴れるほどになってるし、なによりさっきのシュンカの《写し》につかった札は、南のルイシク将軍にもらったもので、術式がちょっとちがうんだよなあ」
それに、さらに東の将軍ヤートの祈祷がかけてあることまではいわずにおく。




