腕一本
コウドが守りの札をわたして逃した兵の背をみていると、タクアンが「おれの張った囲いがとける!」とどなり、よし、と受けたセイテツが、両手ではなった『気』が城の屋根を壊してつきぬけてから、空で巨大な氷塊となり、落ちてきた。
そのまま中庭に浮いている《黒い腕》をつぶすかと思われたのに、先に腕がしなり、氷塊をこぶしで砕き散らせる。
「おめえが、あいつの顔をつぶしたのを、まだ覚えてるのかもしれねえな」
「いやなこと言うなよ」
スザクに茶化されながらも、《黒い腕》を囲うように発した矢のように細い氷で一気に腕をねらう。
宙でのたうつようによけた腕にどうにか数本ささったのをみとどけたところで、苦しむようにうねっていた《黒い腕》の付け根あたりが盛り上がると、またべつに、黒い指先から手首までがでて、もう一本の腕も出てこようともがきだす。
「あの妖物、きのうよりも大きくなっておるな。出てくるまえにわしも逃げるわ」
イカズチが、ハネをもちあげ、身をふってスザクたちをふりおとした。
すぐに舞い上がったシモベに先にでていた《黒い腕》がのびるが、シモベは身をひねってどうにかかわし、こわれた屋根のむこうの空へととびさった。
その間にも、もう一本の腕がじりじりと出てこようとしている。




