将軍も民も守れない兵士
「たしかにそうだな」
スザクのいつもの冷めたことばに、まっさきに立ち上がったのは、ワギョクのそばで薪の火を手に、ひかえていた兵士だった。
「ちがう!!おまえらなどになにがわかる!ワギョク将軍あっての、北なのだ! ケイテキなどが西の将軍になっていなければ、ワギョクさまは立派な将軍のままであった! それなのに、こんなっ、こんなお姿になって、ごじぶんに《術)をかけ、みずからが『境』となるようにしていらっしゃるのだ! シモベのイカズチもワギョクさまとともに『境』になると、こうして『穴』をふさいでいるのだ!だが! だが、この下の穴からでてくる妖物は、あれは、ばけものだ!!きのうはイカズチがおとりとなって戦ってくれたおかげで、どうにかワギョクさまはひきずりこまれずにすんだが、兵の半分は喰われ、ほとんどが怪我をしてうごけない。つぎにあのばけものがでてきたら、北の兵は全滅するしかないっ、・・・もお、、ワギョクさまも、民も・・・まもれない・・・・」
兵は手にした火を、地面におとし、地につけた両手のあいだに顔をうずめ、泣き出した。
ワギョクはあごの先まで黒くなった顔をどうにかそちらへむけ、すまぬ、とちいさくあやまった。




