ただの《抜け道》
「アレがあける穴は、なにも土のある『地』にだけではない。溜めた水の面が、どこともつながるように、アレが空で手をひねったとしてもそこに『穴』はあき、《常世のくに》とつながるのよ。 そうしておれは、からだに『穴』をあけられた。おれのからだの『穴』になったところは感覚もなくなり、みてのとおり、墨をぬられたように黒くなった ・・・」
なにをした!!
さけんで腹の部分を手でおさえたが、そこはもう、なんの手ごたえもない『穴』だった。
おれを殺そうとしたのだから、ここから生きて帰ろうと思ってはいなかっただろう?それならば、すこしはおれの役にたて。
そういって、こんどは心の臓に手をあてられた。
息ができずにあえいでいるワギョクを楽し気にみていたケイテキが、こんなものか、とようやくからだから手をはなすと、おまえもこれで、ただの《抜け道》よ、とわらいかけ、顔をさげると、ワギョクの胸の部分に、 ―― いきなり、頭を突っ込んだ。
声もでず、からだも動かないワギョクは、ケイテキの頭から肩が、おのれの黒くなった胸から腹にかけてあけられた『穴』へとはいりこんでゆくのを、ただみているしかなかった。




