サモンおこる
「・・・そのときは、街のほうでは食料は豊富だった。 西の領地でつくった北の作物は西寄りの街でそのまま売り買いされて、シャムショとの取引もそこで終えられる。だから、山のほうの里へまわる量が減っていることに、気がまわらなかった」
前までは山の里で作られた作物は、つくったものたちがじぶんたちで食う量を確保したうえでのこりを街へ売りに行っていた。
だが、天候のせいで作物は育たず、街へ売る分どころかじぶんたちのぶんもない。
ところが、山をはなれた街のほうでは、西の領土でつくった作物があふれていた。
「シャムショから、今年はなぜハゴロモダケがないのかときかれ、茸をとりに行く者もいないことに気づき、ようやく山の異変と食糧難に気づいた」
そして山が隠され、オニが湧いたことも、コウセンから知らされた。
「 一の宮の大臣であるサモンさまは、ここでは伝説のお人だ。そのサモンさまがじきじきにおでましになられ、おれはおこられた。ほんとうは言い訳したかったが、そのとき、おれの口はケイテキの名をだせなかった」
「恐れてたのか?」
セイテツがすこしばかにしたようにきくと、将軍はおおきなわらいをあげた。
「しゃべれなかったのよ。 ―― しかけられた覚えもないのに、術をかけられていた。いや、おれの知っている類の術ではない。あいつがつかうのは、『ばけもの』の術だ。あいつは、この北の領土をはじめから狙っていたのだろう。『力』をためこみ妖物をうみだす山が多く、《常世のくに》ともつながりやすいのを見抜いたうえでな」




