そなえ
どの領土内でも、おかしな病も、おかしな骸も出ず、西の領土の混乱はおさまったが、新たな将軍はたてずに、いまだ、領土の《清め》を続けているとして、サモンたちがとどまっている。
トクジは骸の引き取りを家のものに断られたチサイの墓をたてたあと、腕をみこんだ男衆たちを集め、稽古をつけはじめた。
コウドはむかしの伝手をつかい、刀や槍、クナイなど武器となるものをあつめ、すこし『力』がある者たちは、坊主のタクアンによって簡単な術を教えられ、またなにか色街で事がおこったときに、その男たちであたれるよう準備した。
スザクとセイテツはそのあいだ、まずは《黒森》へゆき、《黒鹿》の長であるホウロクと会い、ケイテキの行方のてがかりを得ることにした。
黒森はこの世において大切な場所であり、前までは西の領土となっていた。その、西の将軍のもとにいたホムラという男のしわざで、森が焼け、そこに住まう黒鹿たちにせまった危機から救ったのは、帝の命をうけて動いたスザクたちであり、黒鹿は、いやでも帝に借りができていた。
「 ―― いや、それはべつにいやじゃないけど」
人のかたちをした黒鹿の長であるホウロクは、セイテツの言葉にそう返した。