水は西へと
「あんたが隠してるんじゃねえのか?」
スザクのといに、はっきりとしたわらいがかえった。
「隠すもなにも、あの『ばけもの』に、おれはうまいことつかわれただけだ。 ―― 北の領地は、もともと雪山が多くて土地も貧しい。おれが将軍をついですこしずつ山に溜池をつくり、その下に田をつくる計画も、はじめはうまくいっていた。 だが、あるときから溜池の水が、どこかへ抜け始めた。 ・・・・」
どこへぬけているのか調べているときに、西の将軍から、《このごろ西ではわき出でる水で山のふもとにいくつかの池が突然あらわれているのだが、そちらの前の冬の雪はそんなに多かったか》と問い合わせる書状がとどいた。
そうか。水は、西の領地へぬけたか
あきらめ、また別の場所をみきわめて溜池をつくらなければと頭をなやましていたところに、書状をかえした西から、おもってもみない言葉がとどいた。
『 そちらのため池の水がでたのだから、そこへ、田をつくってはどうか? もちろん刈り入れた作物は、そちらのものとしてけっこう 』
西の将軍が仕立て、式神としてつかわされた黒い鳥が、山を視察していたワギョクの肩にとまり、そうささやいた。




