ワギョク将軍
シュンカがそれにかけよろうとするのを、コウドが腕をひいてとめた。
「だめだ。結界がはってある」
「そんな、」
「おれが壊す。《神官》の術を、こんなことにつかうなんて、胸クソわりいんだよ」
セイテツがめずらしく怒りをためた声で言って境をそのまま壊し足をふみいれた。だが、結界はこわれたのに、シモベは動かず、低いうなり声をだし、威嚇し続ける。
「 おいおい、あまり近づくと喰われるぞ。シモベなんぞ妖物みたいなものだからな 」
よこたわるシモベのむこうにある薄闇からいきなり響いてきた声は、わらっている。
「おまえたちが天宮から来ているとはいえ、このおれへ、ことわりもなく術をこわすのは無礼だろ」
手に『力』をためだしたセイテツがそちらへ冷めた目をむけ、ワギョク将軍か、とむきなおる。
「 あんた、僕と妖物の区別もつかないのか? こんなひどいめにあわせていったいどうしようとしてる?」 ひかりだした手の先に、氷の粒をつくりだしながらきく。
そのあいだシュンカがシモベにかけより、歯をむきだした顔をむけられるのにもかまわずに、地についたながい首に手をあてはじめた。コウドとタクアンはシモベのからだにささった剣をひきぬいてゆく。
その様子をみて、ワギョクがまたわらう。
「おい、またおれへことわりもなく、こんなところでシュンカに『力』をつかわせるなよ。そんなことをしていると、 ―― 妖物どもがあつまってくるだろう?」
ざわり
地面がうごめいた気がして、コウドは足もとをみた。




