中庭は闇
馬車は橋をわたり、空堀をこえた。
黒く大きな城は塀というよりも、戸板のようなものでおおわれていて窓もみえず、入口らしきところさえみえなかった。
だが、馬車の前をゆく兵士の馬が近づくと、壁だとおもった板が一か所、ぎりぎりと音をたててそとがわへひらいた。
ひらいたその中は、明かりもない暗闇だ。
「・・・なんだ?ここの城は、中庭がないのか?」
セイテツはたちあがって闇をのぞく。
前をゆく兵士たちがその暗い中へはいってゆき、馬車も続こうとしたとき、馬たちがとつぜんいななき、あばれはじめた。
馬車からとびおりたスザクたちは、その暗い中の、奥にいるものの気配を感じ取った。
ぎりぎりと音をたて、壁のような板がしまりきると、上のほうがぼんやりとあかるいことがわかる。
ばさり、と大きく重いものが地面にたたきつける音がして、土ぼこりがまきあがり、また馬たちがさわぐと、それにまたがっていた兵士たちがとびおりた。
ようやく人の気配がしてでてきた兵たちもだれもしゃべらず、馬をおさえながら、横の方へきえてゆく。どうやらここが城の中庭ということになるようで、奥の二階建ての階建とつながった回廊が庭の壁のようになり、ここを取り囲んでいるが、東の城と違い、そこから庭を見る者はいない。
城の両脇には、きっと厩が(うまや)があるのだろう。




