黒い城の中に
背に、送ってくれた兵たちの視線を感じながら関所に立つ北の兵士にコウセンが出してくれた札をみせるとすぐに、ワギョク将軍のところへおつれいたします、とすでに用意してあった馬車へとのせられ、城へむかうこととなった。
大通りをゆくのに、街はまったく人の気配がしなかった。
店はしまり、家々の戸はたてられたままだ。
「みんな、どこかに移動してるのか?」
馬車のとなりで馬にのる兵士にセイテツがたずねるが、こたえはない。
それどころか、いままで迎えてくれたどの領土の兵士たちともちがい、だれもスザクたちと目をあわさず、はなしかけてもこない。どの兵士も張りつめた『気』で身をまもるようにしており、なんの会話もないままで街をぬけ、城がみえるところまできた。
「へえ。こりゃまた立派だな」
むこうには、木材をすきまなくあわせてつくった美しい橋があり、それをわたりきった先に、黒く大きな建物がみえた。
「黒い城か」
コウドのつぶやきに、材木をいぶしてあるんだろう、とタクアンがこたえる。
高さはせいぜい二階建てだろうが、屋根はとがった急な角度でつけられ、建物のまわりを堀がかこんでいた。
だが、堀に水はたまっていない。
水があったら妖物にはいりこまれるからだろ、とスザクがいうのに、シュンカが顔をこわばらせてうなずく。
「しかし、この領土にいるとしたら、『アイツ』はどこにいるんだ?」
まさかあの城の中だとかいわないよなあ、とセイテツがスザクをみて、入って平気だとおもうか?と小声できく。
「いたら、探さずにすむじゃねえか」
スザクは声をひそめることもなくこたえ、タクアンが声をあげてわらい、コウドはシュンカの手をにぎり、うなずいた。
「・・・なんだよ。おまえらはもう、城の中でおわらせる覚悟か?」
みまわした面々の顔をみて、セイテツもしかたなく膝をたたいた。
「わーかったよ。おれも、腹をきめよう」
言い切ったら、どうにか腹がすわり、こんどは城をにらみすえた。




