ずっと前から嫌
8.
あしをふみいれた北の領地は、ひどく静かだった。
アラシにはのせてもらわずに、東の兵たちにかこまれた馬車によって北の関所がみえる近くまで送ってもらい、領地同士がすぐとなりあわぬようにもうけられた帝の土地をぬけてスザクたちは関所にむかった。
その間も、東の兵士たちはむこうからずっとこちらを見守っていた。
「 ―― ずいぶん、あからさまですね」コウドが振り返ってつぶやく。
そりゃそうだろ、とセイテツが頭をかいた。
「ヤート将軍は、ケイテキのいどころは北の領地のほかありえないっていうくらいだ」
祈祷をうけたあとに、あらためてケイテキについてはなしをすると、ヤート将軍は顔をしかめ、ずっとまえから嫌だった、と口をまげてみせた。
「 わしが先の将軍にお仕えしていたころ、ケイテキもまだ、むこうの将軍に仕える身分だったがな、そのころには西の将軍はケイテキに耳打ちされてからしか、しゃべらなかった。あのときからもう操っていたのだろうよ」
西の将軍は病で亡くなり、その前には『あとはケイテキに任せる』とみなにきかせており、反対する者もおらず、すんなりと将軍になったという。
「将軍をついですぐに、軍を大きくしただしんで、こちらもそこから用心するようになった。守りを怠るなと先の将軍にいわれ、わしがあとを継ぐことになったのだが、ようは、ケイテキが東に目をつけぬように、わしが『置かれた』ようなものよ」
そうして東はずっと西とは距離を置いたが、北は、なにかとケイテキとつながりをもっているようで、将軍どうしで会う回数も頭抜けて多く、西も北からきた人間だけ、商売をする税を低くしたりした。




