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残った『医院』に
2.
コウドにきいたはなしによれば、男衆のからだをのっとったケイテキはあの『化かし辻』のなかへ消えていったという。
あの場所は妖物の通り道なので、そのはなしは不思議ではない。
逆に、それから街になんの異変もないことのほうが、トクジは、すこしこわい。
せっかくつくった『医院』には、チサイののこした医者の知識と道具をひきついでやってくれるという女を、高山からきたタクアンがいっしょにつれてきてくれた。
産婆をやっていたそのとしよりは、どうやら昔からのタクアンの知り合いらしく、「あのこの目にあった傷を治してもらったんだからあたしは働くさ」と、トクジの肩をおもいきりたたいた。
年にあわぬほど活気にみちた婆さんに、コウドなど男衆たちは最初から頭が上がらず、療養所の女たちは、すぐに『医院のかあさん』と呼ぶようになった。
金子はうけとらず、面倒だけみておくれ、というので、詰所に男衆をあずける店に、じゅんぐりで泊まっていたのだが、すぐに医院としてつかっていた番所を建て増して、そこに住むことになり、いまではもう、完全に色街の者だ。