祈祷
普通の『祈祷』は術札にその祈りの力をこめてわたす。
むかしは大型の妖物と戦う時や戦のとき、将軍や位のあるものにその札をわたすのが神官の役目でもあったが、東西南北の領土も比較的落ち着いてからは、疫病がはやったときに、シャムショが各領土にいる神官に命じてその札をつくらせ、民に配ることになっている。
ヤートはセイテツのおどろきにわらい、わしの祈祷は本来『力』のないものだって妖物を倒せるほどの力をさずけるぞ、とむきなおった。
「わしの祈祷はきくぞ。ほしかろう?」
「そりゃそうだろうが、 ―― シュンカはさしださないぞ」
セイテツがスザクをみやってから言うと、ヤートは首をまげ、まあいいとうなずいた。
「四の宮の大臣から鳥がきてな。おまえたちに力をやれば、ケイテキをこの世からおいだせると言っている。たしかに、わしがこのさき東の領土を守り続けたとしても、《この世》が《常世のくに》と完全につながってしまえば、ここもすべてのまれる。それならば、おまえたちに望みといっしょに力も託すのもよかろうとおもったのだ。この神殿跡のむこうにひろがる湿地をみろ」
めをこらしたコウドが、ありゃ砂山か?と目をほそめる。
「そうだ。東には、湿地と砂漠があるのだがな、 ―― あれは、砂漠の砂が、《常世のくに》にのまれたくなくて、逃げてきてるのだ」
砂が?とコウドが驚くのに、ここの砂漠の砂は特別でな、とヤートがにやりとしてみせる。
「海にたった黒い雲とおなじように、ここにもせまっておる。いそげ」
かぜがふき、むこうの砂山がまたすこし、かたちをかえた。




