好み
さらに奥に建てられていたのは家畜小屋だった。かなりの大きさで、その小屋のむこうに牛と馬がはなされているのがみえ、あれがアラシが食ってたやつか、とセイテツが牛の大きさと毛並みをほめる。
そのとき、家畜小屋の裏から、いくつもの藁束を肩から上に山のようにもちあげた人影がでてきた。
兵士が、ヤートさまー、とその人影にむかって手をふった。
影は持ち上げていた藁束を小屋の脇に投げおいて、こちらへ近づいてくる。
「ヤートさま、こちらが、お知らせしたご一行です。関所でもめた偽の坊主も片付けてくれてたすかりました」
兵士が大声で報告すると、将軍は腹の底からの笑い声をあげ、着物についた藁をはらった。
そのわらい声をきき、影が近づいてくるにしたがって、セイテツはおのれの口があいてゆくのがわかった。シュンカも小声で、わ、と声をもらした。
「おお、そこの若い男はずいぶんな美形だな。どうだ?今晩、わしの伽のあいてをするか?」
草地を足音がするようにふみしめ、一行の前にきたのは、スザクとおなじほどからだの大きな女だった。
「ふざけんな。ことわる」
シュンカのかわりにこたえたのはもちろんスザクで、そのこたえに女はまた、腹の底から笑い、おまえはわしの好みではないなあ、とつけたし、みなをわらわせた。




