洗濯物
城の前にたつと、入口だとおもわれるはねあげしきの重いとびらがおろされた。
中庭だとおもわれるそこでは、細身のながい刀をもった兵たちがくみあい、刀の打ち合う音とおとこたちの声がいりまじり、砂埃がたっている。
その庭を囲うようにたっているのは兵士用の部屋がある建物のようで、三階建てについたドアはほとんどひらいたままで、庭に面した回廊のひくいてすりには、びっしりとほかの男たちがすわり、下でおこなわれる戦いに、やじをとばし見守っている。
「ちかごろ山と川にでてくる妖物は数を増していて油断できない。街中にはヤート将軍の術札があちこちに貼られているから安心だが、山のほうの里はいくつかなくなってしまった。ヤートさまはいま、ものすごく怒ってる。高山からようやく坊主がおりたのも、遅い遅いと言ってジュフクさまに、先に東によこすようせっついた」
いまはその坊主たちと兵士が山間の里をまわっているがな、と言い終えたところで、兵士用の建物をつっきり、つぎの中庭へとついた。
こんどの庭には女たちがいそがしそうに立ち働き、洗濯物をほしている。
「ここも、城を病人たちに開放してるのか?」
サモンと同じ考えだなとセイテツが感心すると、当然だろうと兵士はわらった。
「病人、子ども年寄、妊婦は強いものが守らねばならない」
そのこたえに、ここはいいクニだな、とコウドが静かなこえでいう。
「西もケイテキがいなくなったのだから、このさき良い将軍がつけばよくなるさ」
洗濯物を干す女たちに片手をあげる男は、コウドが西にいた者だときづいたようだ。
気遣いの言葉をもらった男は、そうだな、と腕をくみ、中庭にはられた綱に干される洗濯物を足をとめしばらくながめた。




