こわい人
コウドが、こわい人だな、と腕をくむ。
「 牛を喰うからと言って、シモベに毒槍をなげるか?テングとおなじように、おれたち人間などがかかわれないとされてる《雲と風の僕》だぞ?」
タクアンはわらって右目の上をかき、そうかい?とききかえす。
「高山でも、台所にたくさんネズミがでたら、しびれ薬をしこんだ餌でこらしめるぜ。坊主だって食い物のことになりゃ慈悲だなんだ言ってられねえ。飼って売り物にしてる牛ならなおさらだろう」
それにわらった兵がうなずきながら、おれたちの将軍は考えるより先に動く人でな、とほかの兵にスザクさまご一行を城へ案内する、と告げて先を歩き出す。
「元神官ということもあって、術もつかうし、なにより勘がいい。 ―― 西の将軍のケイテキが、おかしい存在だっていうのにもずっと気づいていたから、うちは関所で入ってくる人間に対しての調べが細かいんだ」
気づいてたって、どういうふうに、ときくセイテツの顔をみて、「禁術だ」とこたえた。
「まえに、《土釜》ってのを、西のほうでやった者がいただろう?あのときヤートさまは『こりゃ決定だ』と怒ってた」
いまどき、こんなもんをほりおこすのはケイテキしかいねえ
「しばらく前は空がみだれていて土砂崩れや川の氾濫もあっただろう?それも気にいらなかったから、あのころから領土に入ってくるものはしっかり調べろってことになった」
「そりゃすごいな。いままで東の将軍については、なにやら大柄で怪力だっていう話しか、きいたことなかったよ」
セイテツのそれに、コウドが「ヤート将軍のこと、しらねえんですか?」と驚いた。




