兵をもつ役神
「いまのワニも《海》から仕立てた役神ですが、彼は兵としてずっと前から領土内にでる妖物退治をしてくれているので。妖物退治はむかしから、ほとんどお坊様に頼んだことはありません」
「『ずっと前』?そりゃあ、なんていうか・・・毎日仕立て直さないって意味か?」
それでは存神になるんじゃないか、とセイテツはシュンカのほうをきにしながらきく。伍の宮にいた役神のアシは、シュンカの『気』と人間のような『想い』によって存神になりかけ、かなしい最後をむかえてしまった。
ああ、となにかに気付いたようにうなずいた将軍は、《術》がちがうのですよ、と立てたゆびをまわしてみせた。
「ワニを仕立てたのはわたしの婆様なんだが、ほら、『神伝』の《術》は地神様との結びつきで出来上がっているもんで。たぶんわたしらのモノは存神にはならんよ」
「それより、そのワニってやつが、ひとりで退治できるのか?」
スザクが眉をつめ、地図にある『トブキ島』が淡く輝いているのをにらむ。
「ああ、ワニは兵をもってるからね」
「役神が!?」
セイテツがたちあがって声をはりあげた。
「こりゃ、南の領土にはケイテキの中身はもぐりこめそうもねえなあ」
スザクが感心したようにうなずくのに、うーむとうなったタクアンが、やっぱり高山にこもってばかりはよくねえなあ、とわらう。
「この世には、まだこんな知らねえことがたくさん転がってるっていうのに、そんなことも知らねえで、山の中にいたままで《あの世》について知ろうなんざ、おれもまだまだだというのを思い知らされるわ」
「いや、おれたちだって知らなかったよ・・・」
セイテツがスザクをみて、なあ、と同意をもとめるが、てめえは茶屋にこもってばかりなのがよくねえ、とかえされ、南の将軍に笑われてしまった。




