神伝(しんでん)の術
「民たちはわたしのほんとうの姿にうすうす気づいてはいますが、ニグイのおかげで、将軍の座をおわれることもなく、まだ政ができております」
「いや、そりゃちがうだろ。あんたの姿と政は関係ねえとよくわかってるからだ。いい民たちだな」
タクアンが右目の上をかいていうのに、ほそく小さな顔を、なんどもうなずかせる。
「 ―― そうなのです。恵まれております。民にも、側近や兵、従者たちにも。だから、このごろの領土争いとはちがう問題には、頭をなやませておるので」
もとから無いような肩をさらに落とすようにして、テーブルの上の細い手をくむ。
「領土といえば、南は領土での争いもあまりないようだもんなあ。やはり、島が多いからかい?」
セイテツがきくのにルイシクはうなずいて、お茶がくるまで、すこしはなしをしましょう、と手いって、両手をぱしん、とうちあわせた。
「 っ、」
セイテツはその『気』の発し方にはじめてふれて、息をつまらせた。
コウドはシュンカの腕をひいて抱き込み、タクアンは腰を浮かせ、スザクは首をひねった。
「こりゃ、おもしれえ使い方だ」
首をまげたままのスザクがタクアンをみやると、おれもはじめてだ、と椅子に座りなおしたタクアンが暗い中からあらわれた白い影に首をのばす。
「いまのが、南の領土に昔からいるっている『神伝』の術かい?」
『しんでん』?とコウドが抱えたシュンカと顔をあわせあうと、白い影がテーブルのルイシクの横にきて、頭をさげた。
「およびでございましょうか?」
鮮やかな色の着物を着た美しい女だった。




