あの絵を買ってくれた
セイテツは赤ん坊に《祝福》をおくる仕事をしているし、スザクも坊主だから弔いによばれてこの地をふんでいるが、いままで将軍に直にあったことはない。コウドとシュンカは初めて南の領土にはいったという。
領土は独特の地形で、たてに細長い。陸続きの領土はすこしで、あとは島の集まりとなるため、まわるときは海から船でまわったほうがはやいときいたことはあるが、セイテツもまだ船にはのったことはない。
将軍もすまう街は大陸のほうにあり、そこからもっと南にある島々は、年をとおして気候は暖かくすごしやすいが、天気は変わりやすく、ひどい嵐もあるという。
「車の中も豪勢だな」
馬車にあしをふみいれたコウドが口をあける。
車のかたちは、まるで黒い小舟の上に置かれた横に細長い屋根のついた灯篭のようだった。『船』の部分には花や鳥の見事な彫り物がされ、『灯篭』の部分に貼られているのは、光をてりかえす銀色のみたこともない美しい紙だった。
その銀色の紙の内側になる中は、金色の紙に、色とりどりに貝と魚が画かれている。
「ご存じないとおもいますが、うちの将軍はこういう美しいものが好きなのですよ。セイテツさまの画かれた、『風車を持つ女』の絵を部屋にかざっております」
走りはじめた馬車の中、ニグイと申しますと名乗った歯の白い男は絵師にわらいかけた。
「へ?あれを買ってくれたのって、南の将軍だったのか?」
おめえそんなのも知らずに描いてるのか、とスザクにきかれ、いやたしかにあれは仲介にコウセンがからんでな、と思い出すように腕をくむ。




