無礼の理由
「うでをふりあげたらだめだ。おまえのその太い腕をふりおろされたら、その人はとても痛いおもいをするだろう?」
すらりとした立ち姿もきれいな壱の宮の大臣が、廊下のむこうからやってくる。
めずらしく、ながい黒髪は後ろでゆわかれ、いつも背負っている極太の刀は無い。
「サモンさま、ですが、この男、」
怒りがまだ収まらないよう歯をくいしばってコウドをにらむのに、近づいたサモンが微笑んで首をふる。
ボッコウはしぼんだようになり、一歩さがった。
すると、どうしてかコウドも続いてさがり、ボッコウの横で片膝、両の拳をついて頭を垂れる。
なんだあ?とセイテツとスザクが顔をみあわせるのに、「おれは、わかるがな」とタクアンは首筋に手をあて、一歩まえにでた。
「 おれは高山の坊主でタクアンと申す。壱の宮のサモン殿は、北の将軍のご子息にて内にオニをおさめておいでと伝えきいておるが、どうやらこりゃあ、真のようだ。さっきの声だけでからだの芯がしびれてふるえた。 それでな、あそこで小さくなってるコウドってのは、元西の軍人でいまは色街のトクジの下についてるが、そのトクジが、いつもあんたをほめそやすンで、壱の宮の大臣ってのはそんなたいした男なのかって疑っててな。そこであんたの側近にもからんでみたってわけだが、 ―― どうやら当人を目にして、トクジの言葉も信じたようだ」
なあコウド、と名をよばれた男は赤くなった顔をあげ、ご無礼な態度の数々どうかおゆるしください、とさらにボッコウから後ろに下がって、再度拳をつき、頭をさげた。




