トクジはそこを動かず
コウセンが、身をのりだし、二人をにらむように口をひらいた。
「いままでに起こった天災で崩れた山なども、けっきょくは《常世のくに》とのゆがみのせいなのだとしたら、まずは、そういうところからまわってみるといいかもしれんな。むこうだって、大きな穴のあるほうが、でてきやすいだろうから、てあたりしだいにまわるよりはいいんじゃねえか?まあ、あとはおまえらにまかせる」
たのんだぜ、と肩をたたかれたセイテツは、『大きな穴』を思い描いて、なんだかきゅうに酒の味がしなくなっていた。
つぎには、下界の色街へとおり、男衆をまとめるトクジとはなしあい、この妖物退治をてつだってくれないかとセイテツがもちかければ、おれはここから動かねえよ、とあっさり断わられた。
「高山からくる坊主と、役神をつなぐ役にならなきゃいけねえからな。タクアンとコウドはそっちにやるから、それでどうにかしろ」
「どうにかって・・・」
不服そうなセイテツに、トクジはこまったような顔で、いいか、とあぐらの膝をたたいた。
「おめえらは、伍の宮の仲間でもあるシュンカを守らなきゃならねえだろ?おなじようにおれは、この街の仲間を守らなきゃならねえ。そっちでおびき寄せようとしてるアイツが、『化かし辻』からまた出てくるかもしれねえし、だとしたら次は、アイツ一匹で出てくるとは思えねえんだよ。ドウアンかコウアンも、こっちの加勢をしてくれるように頼んである」
そうか、とセイテツは息をのんだ。
「・・・あの、ホムラも、でてくることもありえるのか・・・」
あのとき対峙した化け物をおもいだし、顔をしかめる。




