コウセンはくちだし出来ず
「ああ。 ―― あればっかりは、おれもさすがにたてついた」
そのこどもたちを無事に帰さぬならば、おれでもおまえを、『ウツロ』にほうりこむことはできるぞ、と猫にはいっている帝をおどしたコウセンに、そっくりなふたりの片方がそばにより、わたくしと兄がこの先この世をおさめるのがそれほど不服にございますか、とわらいかけてきた。
「その横で、・・・兄であるジュフクどのは、ぐっと口をとじながら泣いていた。キフクどのはその兄の手を握っていてな・・・。それいじょうは、もうなにも言えなくなった」
弟はウツワとなり、そうして、それから、 ――
「それから、帝はおれたちと『はなし』をするようになった。まあ、一方的なものだがな」
それでも、ただ『いる』という《もの》から、まわりをみて、はなすことができるのだということがしれた。
「帝がいまのようにおれたちを目に入れて話すようになったのは、キフクどのが《ウツワ》になったおかげだ。なにしろおれたち人間よりも、黒鹿たちと話せば事はすんだからな。だからおれが、帝の《中身》がここにきた理由をきいたのは、ホウロクからだ。ただそのときも、ミカドの中身が『追って』きたあいてが、だれの中にはいっているかとは、きかなかったし、ここにきて、あのケイテキに入ってるなんて、おれいがいの大臣もだれもしらなかった」
そこはやはり、この世界のかなめとなる黒鹿にしか知られたくなかったことなんだろう、とコウセンは酒をすする。




