いまだ おると
「もどる気なんざあったら、将軍になって会ったりしねえだろ」
スザクがこのはなしにあきたように湯呑の白湯をのみほす。
「ミカドのほうはな、ケイテキに『はいったもの』に、《常世のくに》を、この人間の世にまでひろげぬかと、はなしをもちかけられたらしい」
ジュフクがつづけたこのこたえに、さすがのコウアンとドウアンも息をつめた。
「まあ、 ―― ここがわしたちにはどうしようもないところでな。帝はな、どちらでもいいと思ったらしいが、おのれでつくりあげた人間の世がなくなるのもさみしいと思っているので、どうにかまだ、『この世』にわしがらおる」
鼻をならしたスザクが、アレのきまぐれでどっちにころがるかわからねえっていうなら、いまとかわらねえだろ、と腕をくむ。
「ミカドをなめるなよ、スザク」
ジュフクとはおもえぬようなこわい声がくぎをさす。
「その『きまぐれ』は、いまのところ最小ですんでおるということだわ。 ―― ホムラという男が、ケイテキをうらぎり、『この世から』葬られたのを覚えておるじゃろ」
水盆からでた手につかまれて
「『この世から』ということは、まさか・・・」コウアンがひくくうなるのに、そういうことだわ、とジュフクがわらうようにひげをゆらす。
では、とドウアンがめずらしく身をのりだすようにして声をひくめた。
「 ―― そのホムラという者は、《常世のくに》に、まだおると?」
おる、とジュフクは短くこたえる。




