きれぬ縁
ジュフクの居房はながく細い階段をのぼりきった平たく狭いところにたっていたが、房のむこうにはまだ岩がきりたつ山がつづき、ここは頂上ではないらしい。
どこまで続いてるんだ?この山は?
どうにかここまでのぼりきれたセイテツがみあげても、先は雲か霞の白いモヤにおおわれていてみえない。
「まさか・・・この山の上も《常世のくに》との境目があるとかいうんじゃないだろうな?」
息をととのえながらドウアンに問う。
「おまえ、ほんとうになにも知らないな。いいか、高山の上はただの空だ。その空は《天守さま》であるテングの領分だから、なにかおかしいことがあれば、剣山のほうから使者がくるだろう」
あきれたような声でこたえた従妹は、先に戸のない房にはいってゆく。セイテツがつづけば、はいってすぐにある台所のテーブルに、ジュフクとコウアンが座っている。
立ったまま腕をくんでそれにむかいあっているスザクの横にセイテツがならび、数度しかあったことのない老人に頭をさげてあいさつすると、茶をのむ年寄に、ドウアンによく似ておるな、とすぐにいわれて、目の合った従妹と、おたがいいやそうな顔で見合う。
「 ―― 血の縁というものは、いやだと思ってもな、やはり、そうたやすくきれるものではないからの。 わしも、いまだにきれぬ」
白くたれさがった眉にかくれた目が、どこか遠くをながめている。




