ゆれる境目(さかいめ)
後ろについたドウアンに尻を蹴られて、どうにかスザクをたよらずにのぼりきる。
ぜいぜいと息をきらしながら振り返ってみた景色に、息をのんだ。
「 ―― なあ、あれは、海、だよなあ?」
雲を下にみるその絶景のむこうには、セイテツもいくどかみたことのある海がある。
塩水だというその水は、つきることがないほどで、果てもなく、この地を囲っているのだと、としよりからきいている。
―― なのに
「・・・あの、真っ黒な雲はなんだ?・・・海があそこで終わってるってのか?おれがまえに東の岩場からみたときだって、みまわしたかぎり、ずっとあおかったはずだ・・・」
それがいま、みまわしたかぎり、黒い雲がわきあがるようにして、こちらにせまっているようで、海はその雲にのまれているようだった。
「 《常世のくに》との、境目が、ゆれているらしい」
さかいめ?とききかえしたセイテツに、はなしはまとめてじじいからききゃいいだろ、と景色をにらんだスザクがきびすをかえす。
いつもなら口をつつしめと注意するだろう側用人の坊主二人は、黒い雲をひたすらにらみ、ただ、うなずきあうだけだった。




