136/146
拒む
いわれて初めて気付いたように、胴体の傷に手をあてた男が、手に着いた黒くねばつくものをあらため、声をうしない震えはじめた。
だがすぐに、くつくつと、ちいさなわらいをこぼしはじめる。
「 《 そうだ。人間の域などとうに超えている身体だわ。だが、ここまできても、ケイテキは、このオレにすべてのまれるのを拒み、オレとのあいだに『ゆがみ』がでてきた。だから、ウツワをのりかえることにしたのよ 》 」
「それなら、なんでまだその姿なんだ?」
セイテツがおもわずきくのに、それがな、とたのしそうなわらいがかえる。
「 《 ウツワのケイテキがオレとひとつにならぬままで、他へ移っても、『ゆがみ』はまだそのままだ。この姿のいまでもオレの『気』の減りがいやに早くてな。色街で医者にはいりこんでシュンカからかなりわけてもらったおかげで、あのあとあけた穴にももぐることもでき、こうして たすかっ た 》 」
言い終えぬうち刀を構えなおしたケイテキはサモンへと跳んでいた。




