何になる
頭をかかえて振ったケイテキが、獣が吠えるような声をあげて、地面にさしていた刀をとりあげた。
「 《 語ったところで何になる?せっかくホムラを 常世のくに へと放って飼っておったのに、それもつぶされ、 オオボリ も 四つ辻 もさきまわりされるようにおさえられた。 ホムラは親の仇などというくだらぬ理由でおれをうらぎり、ジョウカイなど、てっきり、この世の仕組みを越えた『力』を得たい欲は、この世を終わらすためと思ったのに、これもまた兄のためだとかいうくだらぬ理由。せっかくおれと通じ合う者を得たとおもうたのに、しょせんは人間など、その場かぎりの駒にしかならぬ生き物よ。 ―― それなのに、なぜ、 アイツ はまだ この世 にとどまろうとする?なぜ、時間をかけて、ここまでおれの予定を狂わす?》 」
声は割れ、刀を両手でかまえたケイテキの顔にひびがはいりはじめた。
「 《 ミカドの天宮だと?壱の宮から伍の宮だと?大臣とはこのときのために置いたのか?この海のむこうから来た男の砂が、おれたちの身体に触れられるのを知っていたのか? 常世 はもう すぐそこだぞ! 》 」
顔のヒビから黒いなにかをたらすケイテキが、かまえた刀で天をさす。
灰色だった空が、いつのまにか黒くなっていた。




