これこのとおり
コウセンのこの問いに、刀を片手にした男がからだをゆすってわらいだした。
「それよ、それ。おれはだれも信じたことなどないわ。それなのに、むこうは勝手におれが裏切ったなどとほざく。裏切るもなにもっ ―― 」
とつぜん、頭をおさえこんだケイテキが刀を地にさし片膝をついく。
「 う ―― らぎり つづけた。 おれはたしかに、裏切り続けた。 だがそれは、将軍になるためには致しかたないことだ。 おれは西の将軍だ。西には黒森もあり、商家も多い。もっと栄えさせ、力も金もためてゆき西を発展させるのがおれの役目。だが、分をわきまえろ。 ・・・天をみあげ星をさし、・・・だれかが・・・いったことをおもいだせ・・・」
ぐっと、歯をかみしめるように口をとじると、さしていた刀の柄を両手でつかみ、震えるようにたちあがり、顔をあげた。
「 ―― これこのとおり、西の将軍ケイテキは、《何者か》にからだをのっとられておるが、それは将軍になるよりもずっとまえのこと。おれはおれだけのちからで、将軍にのぼりつめたのだ。 たしかに、軍隊も大きくした。北の領土からすこしの地もいただいたが、それは両方の民を思ってのこと。アイツの思い通りにだけはさせぬ。将軍になれたのもアイツが入っていたからではない。この《おれ》がなったのだ。 アイツはたしかにこのおれを《ウツワ》とよんだ。おれに入ってこの世を変えると言った。もう何年も何十年も何百年も、こうして人間をわたってきたゆえ、さまざまな生き方の知恵がつまっているとおのれで言った。たしかにその知恵も借りはした。 ―― ホムラの親を殺したのはたしかにおれだ。あいつの親は役人で金貸しもしていた。おれは軍人になる前にあいつの家に出入りして役人たちに顔と腕をうりこむことを覚え、金も借りた。あいつの親はこのおれが将軍になるべき男だとわかっていたくせに、反乱をたくらむ危険があるとして、早々に捕らえるよう役所に書状をおくろうとした。 だからおれは殺した」




