ケイテキ出(い)ずる
「 ―― あ、いつ・・・」
セイテツは砂山が盛り上がったところから人間の頭がつきだし、まるで砂から生まれたように、うつむいた男がゆっくり現れるのを目にした。
ケイテキだ
白地に金の刺繍がはいった着物を腰ひもだけでゆわき、素足に草履、肩ほどの髪はコウセンと同じようにぼさぼさ。だが、髭ものびていない顔は色つやもよく、片手にはスザクのものよりすこし短いが、立派な刀の鞘をつかんでいる。
砂を落とすように頭をふると、コウセンをみて、にっとわらった。
「『どうか』、ときかれれば、まあ、砂責めとは、あまりいいものとは、いえぬなあ。 コウセンさまよ」
「そうか?てっきりこういうのが好みかとおもってたんだがな。 なにしろ、おまえ、《禁術》とかが好きでしょうがないみたいだしよぉ」
「たまたま、必要だとおもう術が《禁術》とよばれる類なだけ。そもそも、 ―― おれの道理がここで通じるわけもなし」
ケイテキが両手で刀をもち、す、と鞘をひきぬき捨てた。
「 ―― ずいぶんと、いい刀を持ってるんだな?」
コウセンが目をすがめる。
「まあなあ。なにしろ、《この世》にわたってきてからながいので。このような刀にめぐりあう機会もやってくる」
「なるほどな。人間のあいだをわたるのに必要なものを先にそろえたのか」
唾をはくようにコウセンがきくのに、片手で刀をかまえたケイテキがわらう。
「 《この世》をわたるのに必要だったのは、武器、金、力だとすぐに理解できたわ。他人を信じるなどというものがいちばんいらぬものなのに、人間どもは、いつもそれをふりかざす」
「ではおまえに、『裏切る』ということの意味は理解できまいな」




