いまさら
巨大なケイテキが、上体を崩した。
続けてもう片足の膝から下を一気に凍らせるとスザクが脛からたたき斬る。ひびがいったと同時に脛が四方へとびちり、浮き出していたこどものケイテキの顔も砕け散る。
巨大な身体をささえている足を失った《ケイテキのバケモノ》が、仰向きのまま後ろにゆっくりと倒れてゆく。
「あきらめがわりィな」
坊主が文句をいったのは、倒れてゆく身体を支えようとのびていた腕が、めきめきと音をたてながら肘を逆の方向へまげはじめ、身体が倒れきるまえに、それで支えたからだった。
どずん、とあたりを揺らしてバケモノ手のひらが地につき、しっかりと指をひろげると、身体を支えた
セイテツに凍らされた脚のからだに残った部分が、氷が解けるのと同じようにぼたぼたと垂れ、地に触れてはきえてゆく。腰から上の部分はまだ、黒い雲にみえるものがすごいはやさで渦をまいているが、その流動のしかたが急にかわり、うえをむく《ケイテキ》のかおについた口から、ひょお、という風の鳴るような音がもれだす。
「ようやく、おれが地面にかけておいた《囲い》に気づいたのかもしれねえな」
坊主が首をかきながらいうのに、経をうたいながら脚の下をスザクが歩きまわっていたのを思い出し、セイテツは手を打った。
「それで、動けないってことか?」
ところが坊主は首をかたむけ、いや、ただ『地面にはもう潜れねえ』っていう《囲い》だ、とこたえる。
「思うんだが、アイツにとっちゃ、おれたちなんか足の近くにいるムシと同じなんじゃねえか」
「ムシ?」
「テングと違って、邪魔だとも思われてねえってことだ。 だがな、―― 」と、ひょおひょおと音をだす《ケイテキ》の顔をゆびさす。
「 ―― テングが上を囲って、おめえが堀をなぞって横を囲い、それでおれが下を囲ったんで、やつがここを出るとしたら、ゆるんだ上を狙うしかねえが、脚がなくなって立てなくなったろ?」
「ああ、そうだな」
「だから、アレもようやく、ムシみたいなおれたちが邪魔だって気づくかもしれねえ」
「いまか?もうけっこう時間経ってるぞ」
「いまでよかったじゃねえか。覚悟をきめる時間もずいぶんあっただろう?」
「くそ、たしかにそうだが、おまえにいわれると腹がたつ」
「いまさらだな」
「いまさらだが、 ―― おまえと組めてよかったよ」
「・・・なんだテツ?死ぬ気かよ」
「いちおう、言ってみただけだ。この先はもう言わない」
「だろうな」
にっとおたがいわらい、むこうでかたちを変え始めた黒く巨大な《ケイテキ》にむかった。




