ケイテキ
「 ・・・け、《ケイテキ》だ・・・」
セイテツはその黒からでてきた黒い《バケモノ》をみていった。
それは、たしかに城三つ分になろうかという大きさで、先にあった脚の膝と膝のあいだに、すべりこむようにすんなりと、巨大な身体をあらわした。
そのカタチは人間のかたちをして、顔はケイテキのものだが、目は黒い穴のようで、あいた口の中もただ黒い。しかもよくみれば《黒い肌》とみえた身体の表面は、まるで《常世のくに》との境であるように、雲か靄のようなものがわきあがり、渦巻きながらできている。
「あれじゃまだ、カタチが定まってねえから動けねえんだろうが、逆にいえば、おれたちの《術》も、まだアレにはきかねえだろうな」
スザクが腕をくんで、セイテツに言うが、いやいまのうちに、とセイテツは考えた。
「とりあえず、脚はもうかたまっているんだから・・・」
先に出て黒い肌をもつように固まっていたケイテキの脚の表面に、とつぜんぼつぼつと《しこり》のようなものがあちこちに浮き出し始めた。
ありゃなんだ?とセイテツがスザクにきくまえに、浮き出たそれらが人の顔になり、目と口になるところをぽかりと開けると、ひゅうひゅうと風のような音をだしはじめた。
「・・・いや・・・なんか・・・しゃべってるのか?」
『 か えせ かえ せ 』
『 かえ せ か え せ 』
浮き出たそれらの顔をみていると、どうやら子どもから若い男までのようで、黒くひらいた口が、風のような弱い声で同じ言葉を出しつづける。
セイテツは顔をしかめた。
元はホムラだった蛇から、こどもだったころのホムラの魂がとれ、さいごにケイテキへ、父と母をかえせ、と言ったのを思い出す。




