ひびいり隙間のぞく
「わかっておるだろうが、あのバケモノは脚と脚のあいだの、まだ《この世》にひらいておらぬ世界にある《身体》をここに出せずにおるんで、いまはあのカタチじゃ。 だが、さっきわしの《からだ》を喰い、スザクの《術》も喰わせたからな、 ―― あとすこしで、その《身体》もこちらにひきよせられる」
いっているそばから、凍っていた《瘤》がそのまま落ち、地をふんでひらいていたバケモノの足の指が、力をいれるように、ぐう、と地へ沈んだ。
スザクはさっきからずっと経をつづり、その脚のまわりをあるきはじめている。
っき とも っぎ ともいえないようないやな音がひびき、ヨクサは離れたむこうで気を失ったタンニのそばに集まるテングたちに、われらはひきあげるぞ、と宣言した。むかえに駆けつけたテングに拾われ大事に抱えられると、あとはまかせたぞ、と言いおき、ほかのテングたちに、「タンニはつるして持ち帰れ」とわらいながら帰っていった。
「・・・うそ・・・そんな、ここで?」
おもわず情けない声でセイテツが空にかえる黒い点たちを見送りつぶやく。
その間にも、バケモノの、まっすぐにつながっている脚の膝から膝までのまんなかに、ぴしり、と音がしたとおもうと、景色にひびがはいりはじめる。
「おい、ありゃ神官がつかう景色の写しみてえなもんか?」
むこうからスザクにきかれるが、これはどちらかといえば黒鹿がつかうものに似ている。
そうこたえるまえに、ずず、となにか硬い者どうしがすりあわさるような音がして、ずれた景色のあいだに、細長く黒い、隙間ができた。
スザクが脚からとびのき、『黒い隙間』に目をやった。
隙間から、っぎ、 っき、とこすれる音がつづき、び、と音がはしると、《脚》をふくめた一帯の景色にひびがはいりいくつにもこまかく分かれ、ゆっくりとそれがはがれおちはじめた。
――――――
あと一章分で終わりとなります。




