※※ 東
※※
さがれええええ!!
ヤートは兵に命じながら、おのれは前にでた。
両手でふりまわす斧は両方の刃がすでに欠けている。
だが、ここでひくわけにはいかない。うしろには、何百という兵士たちが、最後の力をふりしぼるようについてきてくれている。
「 ヤートさまあ!! 」
「さがっとれえ!動けぬ者を、城へはこべ!」
そうだ。城だけは。
ありとあらゆる術で守りをかため、いざとなったら女たちでけが人や病人を守れるように、火薬も置いてある。術札とあわせれば、すこしの妖物であれば、ふきとばせるはずだ。
だが、 ―― 。
「おれたちはまだ戦えます!いま、こちらへ火薬も矢も運んでおります!」
うしろから刀をかまえる兵がさけぶ。
さきほどまで、砂をまきあげ砂漠からあふれてきていた妖物どもを相手にしていた兵士たちは、疲弊しているし怪我もそのままだが、頼もしくついてこようとする。
おもわずわらいがこぼれて、うしろを一度ふりかえった。
「おまえたちなあ、あそこまででかくなった妖物など、わしでもかなうかどうかあやしいのだぞ。 だからな、 ―― いのちをむだにするな」
さっさとさがって いのちをつなげ!!
腹の底からの命令には、なんだかわらいがまじってしまった。
将軍を継いでからも、東の兵も民も、よくついてきてくれた。
説明はあとになる直感で先に動いても、信じていっしょに動いてくれ、すこしばかり押しの強い質だとわかっていて、いったん引いてくれるのも、兵や民のほうだった。
「よくぞ、こんな将軍につきおうてくれたものよ」
おもえば、たのしく心地の良い日々だった。
むこうの砂山の腹には、黒い穴があいている。
砂は一粒も動かず、その穴の中ばかりが、くろぐろと動いている。
確認した後ろには、もう、補佐を担う三名の隊長たちしか兵はいない。
おまえたち、ほんとうにわしのいうことをきかぬなあ、と肩越しにわらうと、前からでしょう、とわらいかえされる。
むこうの砂山の穴が、ぐう、とひろがった。
ここでどうにか、アレをとめねば、城は《アレ》におそわれる。
片手でもっていた斧を両手でにぎりなおす。
ひろがった穴のなかで、何かが、『気』をためているのを感じる。
いっきに『気』を放ち、それとともに、とびだす気か
願わくば、さきほど相手をした妖物のように、ゆるくかたちを変えるものではなく、岩のようにかたいバケモノであれ。
岩を砕くのは得意だ。
だが、さっきのようにゆるくかたちをかえ、のびたり縮んだり、まきついてから硬さをかえる妖物だと、斧のあてかたを間違えてしまう。おかげで両刃とも欠けてしまった。
祈祷や、術であちこちをかため、兵士にも分け与えているため、実はこのところ、からだのなかに『気』はそれほど残っていなかった。
あの、伍の宮からきた美しい男がわけてくれた『気』がなければ、いまここまで、戦い続けることもできなかっただろう。
「人間だからな。いつかは『気』も果て、死ぬことになる。 だが、 ―― わしの死は、アレを始末してからだ」 腹の底からの声でじぶんにいいきかせる。
穴のなかのモノは、じゅうぶんな『気』を溜め終えている。
くる
両手でためた『気』をいっきに斧へとのせて振った。




