※※ 南
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『 どうする?ルイシク 』
地図の中からワニのあせった声がした。
《常世のくに》とつながってしまった海からでてくる妖物の大きさも『力』も、少し前とは比べ物にならないほどに突然かわり、海は荒れ、島に住む民たちは、どこにも逃げられない。
ほんとうならば、それぞれの島にある海とつながった神聖な井戸と井戸を《術》でつなぐことができるはずが、《常世のくに》のせいで海がゆらぎ水はにごり、地神さまの力もかりることができない。
それぞれの島には海からはいあがった妖物たちがはいりこんでしまったが、いまのところは勇敢な男たちとワニの兵たちだけで、追いはらえているが、妖物の『力』がだんだんと強くなっているのを、ワニは心配している。
『 おれが仕立てた兵たちがむこうに喰われて、力が増してるようだ 』
「ううむ・・・そうきたか・・・」
《神官》などがつかう《術》の《禁術》の類で、そういうものがあるとは聞いていた。
ひとの《術》を喰らい、『力』を増す。
それに、たしかに、ケイテキの中身は《神官》だったときがあるらしい。
「 ―― こまったな。この荒れ方ではニグイたちも船では出られないし、どの島もおなじような状態になってしまっているし、ともかく、先に島民たちを助けないと、みんなこわいだろう」
そのとき、チチチ、とはいりこんだ小鳥がテーブルの上におり、くわえていた小さな匙を置いた。
「ん?きみはコウセンさまの小鳥かな?」
ルイシクがきくと、小鳥はとびたち、地図のよこにおいた匙がたちあがった。
役神にしては手足もなく、サジそのもののかたちをしているそれがしゃべりだす。
『 ぼくは弐の宮の大臣をしているヒョウセツといいます 』
「え!?あの、ヒョウセツさまでいらっしゃるのですか?」
人間とかかわるのが苦手だときく、いまだに会ったことはない大臣だが、前に領土内でひどい疫病がひろまったときに、すぐに薬をつくってくれた。
それの礼を口にするまえに、はねた匙は地図の一か所に立った。
『 ここの砂浜をほって、急ごしらえの《井戸》をつくってください。砂を通してしみでた海水がたまるでしょうから、それを《井戸》として地神の力をかりてみましょう。 ほかの島も、ゆがみがすくない砂浜に同じような《井戸》をつくってつなげばいい。地神の力が届かないようなら、ジュフク殿が術札をくださる 』
「なんと、高山も助けてくださると?」
『 《井戸》ができたら、ぼくも薬をもってそちらへゆきます。けが人を一か所にあつめておいてください 』
「はい!すぐに、すぐに!おい!ワニ!きいたとおりだ、すぐに島にいる兵たちに井戸をつくらせろ!ニグイ!ニグイどこだ?ああ、わたしが海を見にいかせたんだっけ」
このときのルイシク将軍は、今まで生きてきたなかで、いちばん早く走ることができたという。
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