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泣き虫実桜ちゃん  作者: 佐々蔵翔人
8/18

転校

遊び場

家からさほど遠くないこともあって休みの日は実桜、モモちゃん、万里男君の3人で歩いて行く日もあれば自転車に乗って行く日もある。気がつけば地元の憩いの場にもなりつつあるジャパニーズタウンであった。


同じ日本人学校のクラスメイトや当時通っていた現地の学校にいた子もよく利用していて当時は悪いことをしてゴメンねと謝ってくれる子もいた。どうやら悪いことして謝りたかったが実桜が転校してしまったため、わだかまりがあって家も知らずということみたい。


イジメをされてイヤだったし、それもあって逃げるように日本人学校に来たわけだがもし我慢してずっと現地の学校に通っていたらモモちゃんにも万里男君にも出会えてなかった。何もされていないのにモモちゃんと万里男君の顔を見ると涙が出てくる。


モモちゃん、万里男君、そして加害者の子と実桜を宥める。泣いちゃダメと思っていると万里男君がハンカチを貸してくれて涙を拭う。周りの視線も気になって仕方ない。


自分がワンピースを着ている事さえも忘れるくらい全速力で逃げるよう実桜は走った。自分が恥ずかしい、そして友達に恥をかかせてしまったという自責の念に駆られる。


誰かに腕を取られるようにやっと実桜は足を止める。そこにいたのはモモちゃんと万里男君だった。ひとまず2人に急に泣いて走り出したことを謝罪をする。


近くにファミレスを見つけ、そこに入ろう。話を聞くことしか出来ないけど何でも言ってと促すモモちゃん。導かれるようにファミレスに入る。


時計を見るとちょうどお昼ということもあり、ここでランチを食べよう。実桜はエビフライランチ、モモちゃんはカルボナーラパスタ、万里男君はチーズハンバーグとそれぞれ注文をする。


自分で蒔いた種、実桜から言わなきゃダメだとどうして泣いて走り出したのか話さなきゃいけないと思っていた。


「モモちゃん、万里男君さっきはゴメンね。実桜は小さい時から泣き虫で泣き虫実桜ちゃんって周りから揶揄やゆされるくらいすぐに泣く。怒られ、犬に吠えられ、転んでと泣くことが多くて……」


モモちゃんと万里男君はお互いの顔を見てそういう感じには見えない、いつも明るくてかわいい笑顔のイメージが強いから意外だった。


「そうだとしてもさっきはどうして泣いたて走った逃げたの?さっきの子にイヤなことを言われたの?」


万里男君、それは違うと横に首を振る実桜であった。

「当時のことを思い出したとかイヤなことを言われたワケじゃない。ただ、現地の学校でイジメられることがなかったりそれでもずっと通っていたと思うとモモちゃんや万里男君に出会えなかった。そう思うと……」


涙を拭ったはずなのにまた涙が溢れてくる。再び万里男君にハンカチを貸してもらって涙を拭うとモモちゃんと万里男君は実桜の手を握りしめた。


「モモ、そして万里男君も同じだよ。それぞれ色々な理由があって日本人学校にいる。だからこそ出会えた友達だよ。だって私たちは友達じゃなくて心友しんゆうだから」


その言葉を聞いてまた涙が出てくる。何度ハンカチで涙を拭っては泣いているのだろう。実桜自身も分からない。


ダダをこねる

モモちゃんと万里男君と出会ってからというものの相変わらず泣くこともあるが、明らかに笑うことが増えた。毎週のようにジャパニーズタウンに行っていて、そろそろ新しい遊び場を開拓したいと切に願っていた。


ある日、学校に行くとモモちゃんの姿が見れない。ショートカットにかわいい笑顔にエクボに元気をもらっていたのにどうしたのかな。体調が悪くて休みなのかな。そうだったら心配だし、お見舞いに行かないと。


そしていつものように先生が教室に入ってきて話す。

「クラスメイトの倉敷だがお父さんが転勤になって日本に行くことになった。仲良くしていたクラスメイトには申し訳ないと電話で言っていたよ」


先生が何を言っているのか分からなかった。状況をスグに受け入れる事が出来ずにいてどうして実桜に教えてくれなかったのか、万里男君はこの事を知っていたのか……。モモちゃん、私たち心友しんゆうじゃなかったの……。


この日の授業は全く頭にはいらない。黒板に書かれていることをノートに書くがそんな精神状態ではなかった。学校帰り、俯いたまま校舎を出ると万里男君が後を追うように走ってきて話があると公園に行くことになる。


実桜は万里男君に問いかける。

「万里男君はモモちゃんが転校をすることを知ってたの?もし知っていたのならどうして実桜に教えてくれなかったの?教えてくれてもよかったんじゃない?」


ダメだと分かっていたけど万里男君に当たってしまう。そんなことをしてもモモちゃんがトロントに帰ってくることはないのは分かっているのに。


申し訳なさそうにする万里男君が口を開く。

「実はモモちゃんから言わないで欲しいって。実桜ちゃんに言ったら心配するし、ずっと一緒にいたからこそ言えない。我儘わがままだけど許して欲しいって」


もう何で言葉にしたらいいのか分からなっている実桜。ずっと一緒にいるのが当たり前だと思っていたのにな、転勤で仕方ないことは頭では分かっているのに。日本のどこに行ったのか、連絡先くらい知れればと思っていた。


椅子に座って肩を落としていると万里男君はカバンから何かを取り出して実桜に渡す。お菓子のかわいいレターパックで態々《わざわざ》実桜のためにお手紙を書いてくれたと察した。万里男君に読まれるのは恥ずかしく、家で読むことにしようとする。


ずっと公園にいるわけにはいかず、万里男君と一緒に帰る。ここにモモちゃんがいないのかと思うと寂しいが前を向いて家に帰る。そして手紙を読まなきゃ。


途中で万里男君とバイバイする所だが実桜の家まで付いてきてくれた。理不尽に当たり散らしたにも関わらず実桜を家の前まで見届けるだけでなく、玄関に入るまで見届けてくれていた。こんな実桜にも優しく接してくれているのに酷いことをしてしまった。明日、謝らないと……。


靴を脱いでスグに自分の部屋に入ってお手紙を読む。

「実桜ちゃんへ

突然の転校になってゴメンね。ずっと一緒にいる実桜ちゃんには直接言うべきだけど会うと別れが惜しくなるからお手紙という形にするね。モモは前にみんな心友しんゆうと言ってたのにこれじゃあ支離滅裂だよね。日本とカナダ、国境も時差を越えて仲良くしてね。アドレス載せておくからお手紙でもメールでも近況を伝え合おうね」


まず、日本とカナダは何時間時差があるのかと調べると13時間と書かれている。国際郵便となるといくらするのか計算するとそこそこの値段になる。メールならいつでも見れるし、いつでも送れるな。メールでやり取りしよう。


晩御飯を食べている時もモモちゃんが日本に言っちゃったことを伝え、ずっと泣いていたから夜は寝られないかもとベッドに入り。目を閉じてしばらくしていた。


翌朝、スッキリと目覚めていた。この状況に実桜の昨夜思っていたことはなんだったのだろうか、モモちゃんとは国境を越えて心友しんゆうでいることには変わりない。


違和感

モモちゃんが転校して数日、未だに慣れない。パソコンでメールのやり取りはしているがいつも隣にいた友達がいないことに寂しさを感じる。ずっとこうして誰もいない机を眺めていても何も変わらないことは分かっていた。


モモちゃんだけでなく、万里男君まで転校しちゃったらと思うともう何も出来ない気でいた実桜。逆に実桜だってお父さんの転勤でどこかに引っ越しをするかもしれない、その時は万里男君がひとりぼっちになっちゃう。そうなった場合、果たして寂しいと思ってもらえるのだろうか……。


また新しい友達を探そうと思いつつも、それならば今いる万里男君ともっと仲良くなりたいと心の中でせめぎあいをしていた。万里男君のお友達とも仲良くなれたらな。今さらながらモモちゃんの友達はどんな子だったのか……。


家に帰っていつものようにパソコンを起動して、モモちゃんから連絡が届いていないかを確認するのがいつしか日課となっていた。


転校して数日が経ち、モモちゃんは新しい環境に溶け込めているだろうか、新しい学校に馴染めて友達は出来たのかを綴る。人見知りしないし、スグに友達が出来そうだな。


メールを打ち終わってアクビをするとメールが届く。

「実桜ちゃん、モモの心配をしてくれてありがとう。まだ戸惑いがあるけれどクラスメイトみんな優しく接してくれて何とかなっているかな。早く仲良しの友達の写真を実桜ちゃんに送れるようにするね」


日本人学校に転校してきた時の事を思い出した。緊張した上、ホットランチの日だと知らずにいてお弁当も持ってきていない実桜にご飯とおかずをみんなからもらってきてくれた事。あの日のことは忘れることはないだろう。


「万里男君と仲良くしてるよ。モモちゃんがいなくなって新しい友達が出来るか不安もあるけどお互いに頑張ろうねと実桜も返信をする」


実桜、モモちゃん、万里男君とのカナダでの思い出はこのプリクラ1枚だけかも知れないがあの時無理やりでもプリクラに入らなかったら思い出の形はなかった。時には強引にすることも大事、それが唯一の思い出になるかも知れないと改めて痛感をする。

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