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なろうラジオ大賞

ひまわりの花束に願いをこめて

作者: 真鶴 黎

 「退院おめでとう」


「お世話になりました」


 私の言葉に少女は深々とお辞儀をする。



 天才



 目の前の少女はそう呼ばれていた。幼いながらに数多の才に恵まれた彼女は多くの期待に応えようとした結果、身体を壊して倒れてしまい、入院することとなった。

 私はそんな彼女の担当医だ。運び込まれたばかりの彼女は見るからにやせ細っていた。同じ年頃の子供に比べると体重が足りておらず、また、生気がなかった。

 それほどまでに弱っていた少女が今日、退院する。


「あまり無理をするんじゃないよ。お母さん、お願いしますね」


 私は少女の隣に立つ母親に釘をさす。母親は、はい、と小さく答える。

 

「退院のお祝いをあげよう」


 はい、と言って担当の看護師は少女にひまわりの花束を差し出す。と言っても、生花の持ち込みはうちの病院ではお断りなため、折り紙で作ったものだ。


「皆で作ったんだ。もちろん、先生も」


 視線を送ってくる看護師に私は頷く。

 看護師の提案だった。見舞いに来ていた少女の幼馴染に誘われて折り紙をしたことがきっかけらしい。患者の少女が幼馴染と一緒に折り紙をする姿が印象的だったらしい。

 折り紙で作られたひまわりの花束には私や看護師、少女の幼馴染のメッセージが書かれている。


「ありがとうございます」


 少女は花束を丁寧に受け取る。じっと花束を見つめた後、少女は顔を上げる。


「どうしてひまわり?」


 少女の疑問に私は小さく笑う。それもそうだろう。ひまわりが咲く季節でもなければ、彼女に縁のある花でもない。


「ひまわりの花言葉。若い時期のひまわりが太陽を追うように、憧れや情熱を抱いて未来へ進めるように願いをこめた」


 振り回された少女が今度は自分の意志で道を歩めるように。

 私の言葉に看護師が頷く。


「自分の人生だ。自分自身で切り拓いていってほしい」


 私のエールに少女は微笑む。しかし、その笑顔は泣くのを堪えているようにも見えた。






 覚えていますか、と見せられた折り紙でできたひまわりの花束の写真にあの日を思い出した。


「先生、またお世話になります」


 彼女は最後に会ったときと同じように深々とお辞儀をする。ただし、あの日と違い、彼女は快活な笑顔を浮かべて、私の前に姿を現した。


「どうしてここに?」


 優秀な成績を修めた彼女ならもっと大きな病院で活躍できるはずだ。


憧れ(先生たち)の元で、勉強したいからです」


 白衣に着られている感じはするものの、キラキラとした眼差しの医者の卵に私は泣きそうになってしまった。

医者の卵が退院した後の話→『ポーカーフェイスを演じるの』 https://ncode.syosetu.com/n2842hz/

医者の卵と背中を押した幼馴染の話→『天才と呼ばれた君へ』https://ncode.syosetu.com/n0919hz/

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