お嬢様は好きを我慢しない ༊༅͙̥̇おわりのはじまり༊༅͙̥̇
クララリリス・ファヌエスは二人で一つ。
和と魔法の国オーワナーク。
その昔、魔法大王國ジュビドーから独立し、流刑の地に移り住んだファヌエス侯爵はこの地で家族を守り、いつしか侯爵を慕う者で溢れた。
守る為に隔たれた土地という意味だったオーワナークだったがいつしか、人と人を繋ぐ国として呼ばれるようになった。
ファヌエス侯爵を始祖とする和教は、先祖崇拝する合理主義であった為あまり広まらず、そこから派生した隠教は、人は信仰によって救われるとする資本主義を基本とし、赤髪に青眼の巨人、鬼神を崇拝することで信者を集めた。
ただし、この鬼神、空想の産物ではない。
ファヌエス侯爵は、魔法大王國ジュビドーから独立する際、ジュビドーの枢機卿ナツィアスから呪いを受けた。とナツィアスが信仰するリベラル教が訴えている。
後にこのナツィアスが反乱を起こし教皇殺害後、大王國を乗っ取るのだが、当時はファヌエス侯爵家と人気を二分するホルスト伯爵家当主であり、ホルスト伯爵家は星読みによる信仰を集め自由全体主義で制圧するリベラル教を支持。
大王國を乗っ取ってからはゆるゆるな、なんとなく自由の全体主義で国民を洗脳、ナツィアスこそ自由の旗の下、他者に自らの世界観を押し付けるなどの独裁志向が蔓延する国家へと成長させた。
そのナツィアスから受けた呪いとは。
リベラル教が、悪魔だと忌避するツノの生えた生物を、ホルスト伯爵が敷地内の別邸地下に監禁していた。
蘇芳色の髪、夜と朝の間の色の瞳。
陽の光の届かない地下に長くいたと思われる青白い肌。
額には萌葱色のツノ。
名は儒姫。
記憶の始まりからここにいると答えた儒姫は、汚物にまみれながらも美しく輝く瞳をファヌエス侯爵に向けた。
ファヌエス侯爵は、ホルスト伯爵家の地下にいた儒姫を連れ出し出国する算段を整えてから行動した。
もとより、その頃の侯爵には執着するものが儒姫しかなかったからだが。
ファヌエス侯爵は邸の使用人達と流刑地で落ち合う話だけ合わせ、皆バラバラに出国した。
荒野からの開拓は困難を極めたがやり遂げた。
集落が村に、村が町に、オーワナークが国と呼ばれる頃、ファヌエス侯爵と儒姫との間に子供が授かった。
クララリリス・ファヌエス。
昼はクララ、夜になるとツノが生えたリリスという人格に変わる。
クララは吸収という能力が常に発動し、魔法や攻撃が全く通じない。クララの周りには空気の層があり、ふわん、ふわん、とどんな接触もその空気の層が飲み込んでしまう為、クララには何も触れることが出来ない。
その層は国を覆っている為、国の中でいざこざを起こす者や、悪口を叩く者などは空気の層に飲み込まれ、層から吐き出されるように出てきた者は皆、地獄から生還したような顔で口を噤むのだった。
夜になるとリリスは、クララが吸収した力を自由自在に扱える反動という能力が使えた。
クララが静であれば、リリスは動であり、夜の間はクララの吸収が無い為に犯罪が多く、リリスは朝になるまで国中を駆け回り好き勝手に暴れ回る。
オーワナークには鬼がいる。
鬼を崇拝する鬼教。
リベラル教を裏切って呪われ鬼となった皇女。
夜になるとオーワナークのあちこちでリベラル教の信者が問題を起こし、騒ぎ、せせら笑う。
リリスが彼等の前で「くれくれ」、空気の層がペコリと吸い込み、ペッと吐き出された彼等は感情も表情も失われた生ける屍と化している。
そしてリリスの「あっちいけ」でペコリと吸い込まれた彼等はペッと魔法大王國ジュビドーに捨てられるのである。
捨てられた生ける屍はジュビドーの保護施設と呼ばれる最下層シェルターに運ばれ、見捨てられる。最果ての三角村。
三角形の封印を施されたその地からは、中から外へ出ることは叶わない。
姥捨山。死を待つだけの牢獄。無法地帯。好きに呼べばいい。
魔法大王國ジュビドーの光と影。
破滅の足音は聞こえるか。
鬼の噂を聞きつけてやってくる、ソレの足音が。
その昔、鬼の国のお姫様が迷子になって消えた。
今も彼等はお姫様を探し続けているのだとか。
お姫様を攫ったのは誰だ。
悪い奴はどこだ。
鼻の穴引き裂いて、脳味噌でお団子作ろうか。
それとも四肢を引きちぎった後に生きたまま獣に食わせるか。
蜘蛛の子一匹逃しはせぬぞ。