13 泥で汚れた――
お城の舞踏会はペティが想像していたよりも、ずっと豪華で煌びやかな場所でした。
部屋の中央では綺麗なドレスを着た女性とタキシードを着た男性がペアとなり、音楽隊の奏でる曲のリズムに合わせて優雅に踊っています。壁沿いのテーブルには見た目も美しい色とりどりの料理やフルーツが並べられていて、グラスを片手にたくさんの男女が談笑しています。
さて、ペティは会場に勢いよく飛び込んでみたものの、自分がどこへ向かえば良いのかの見当もつきません。何しろ、彼女は貴族の社交界というものに初めて触れているのですから無理もありません。
そんな彼女はキョロキョロと周りに気を取られながら歩いてたものですから、うっかり男の人の背中にぶつかってしまいました。
「ご、ごめんなさい」
「おっと、こちらこそ失礼……」
男は振り返りペティの姿を見て、急に顔をしかめます。
「なんてみすぼらしい娘なんだ」
男の反応にペティは戸惑いました。
すると、男と一緒にいた女たちがペティの周りを取り囲んで――
「見て、この娘のドレス」
「まあ、汚らしい」
「スカートに泥が付いているわ」
矢継ぎ早にそんな言葉を投げつけてきました。
ペティはそこで初めて気付きました。ライ麦畑の一本道を走っていたときに泥が跳ねて、スカートの裾に泥が付いてしまっていたのです。
「靴も泥だらけね」
「まあ、汚らしい」
もうすっかり乾いているものの、靴底に泥が付いているのは本当のことです。
「それに、その安っぽい髪飾りはなに?」
「うふふ、道ばたに咲いている花でも挿して来たのかしら?」
とうとう周りの人達も加わり、ペティのことを笑うようになってしまいます。
ペティはすっかり悲しくなりました。
馬小屋に住む彼女にとって、すでに貴族社会は場違いな場所になっていたのです。
でも――
この姿は花屋の店主も、服屋の店主も、靴屋の店主も、そしてサム爺も、町で出会ったすべての人達に褒めてくれたものなのです。
だから、ペティはこんなことぐらいで泣いたりしません。
「ああ、本当に泥が付いてしまってるわ。気付かなくてごめんなさい」
そう言いながらペコリと頭を下げました。
そしてパンパンとスカートを叩いて、足をバタバタさせて、泥を落とし始めます。
「分からない子ね! 床が汚くなると言っているのよ!」
「それも分かっています。今から拭きますから大丈夫です」
そう言いながらペティはハンカチを取り出し、ササッと床を吹き上げました。
それを見ていた人達は皆、目を丸くして驚いています。
「でも、この泥は汚くはないわ。だって畑の土があるから麦も野菜も育つのですから、感謝することはあっても、泥は決して汚い物ではないわ」
泥が付いたハンカチを皆に見せ、丁寧に折りたたみます。
そして――
「そこを通してください。わたしはここに踊りに来たのですから」
正面に立ちふさがる女にそう言い放つと、ペティは中央に向かって歩き始めました。