Ⅺ お城へ
サム爺が背中から降りると、白馬は自ら二頭の馬の間に入って行きました。二頭の馬は脚をばたつかせて落ち着かない様子でしたが、白馬がそれを窘るような仕草を見せると、すぐに落ち着きました。
その様子を見た御者は慌てて予備のハーネスを白馬と馬車に装着しました。
三頭になった馬たちは互いに顔を寄せ合い、それから高らかに声を発しました。
「ふっふ、馬たちの意気も上がってきたようだ。さあ、お嬢様……」
そう言いながらサム爺は手を差し出しました。
ところがペティはその手を見つめているだけです。
「ん?」
サム爺は首を傾げました。
そこでようやくペティは口を開きます。
「あの……サム爺も今日のこのことを知っていたの?」
「メイドもコックも門番だって、屋敷の者はみんな知っていたさ」
「……それで今朝はわたしを追い出すような態度をとったのね? それなのにわたし、サム爺をひどい人だと思ってしまったわ……」
「がははは、そんなことぐらいで、わしは怒らんよ。しかし、まあ、お嬢様のドレス姿を見せてもらったことで貸し借りなしということにしといてやるよ。さあ、行った行った! 早く行かないとわしが連れて帰りたくなっちまうだろ!」
「まあっ」
ペティは頬に両手を当てて恥じらいました。
そんな二人のやりとりを見ていた町の人達は目を丸くしています。
町の人達にとってサム爺の笑顔はとても珍しいものなのです。
「じゃあ行ってきます!」
ペティは馬車の窓から顔を出して、サム爺と町の人達に向かって元気いっぱいに手を振ります。
御者の合図で、三頭立ての馬車は力強く走り出しました。
ところが城までの道のりは決して平坦ではありません。
野を越え、山を越え、馬車は時間をかけて進みます。3つ目の町を抜け、広大な牧草地の先にようやくお城が見えてきたころには、すっかり日が暮れていました。
夕方から始まった舞踏会は、もうすぐ佳境を迎えるころです。
これまでほとんど休みをとらずに重い馬車を引いてきた三頭の馬たちは大分疲れているはずですが、御者のかけ声に呼応するように声を上げながら走り続けています。
ようやく城の門が見えてきました。
手綱を持つ御者の手は汗でびっしょり濡れています。馬たちも息が上がっています。でも、ペティを少しでも早く城へ送り届けたいという気持ちはみんな同じです。
馬車が城の大きな門をくぐろうとしたその時です。
「その馬車、止まれーっ!」
衛兵の怒声が響いてきました。