4日目 乗物と観光⑧
これは、とある男の旅路の記録である。
「さぁ! こちらが観光客の皆様から絶大な人気を誇る複合型アトラクション付き巨大テーマパークで~す!」
偽りの空が青色から茜色に染まった頃、俺たちが最後に訪れたのは巨大遊園地だった。
詐欺まがいの城の次は、夢と希望という幻に彩られたおもちゃ箱ですか
ポップで楽しそうな音楽と煌びやかな門の形をした入口に向かって多くの老若男女が足を運ぶ中、人混みから少し離れて立ち止まった俺は、小さく溜息をついた。
「渡邊様、どうなされました? お城を出てから浮かない顔をされていますが……もしかして、今回の観光地巡りがお気に召しませんでしたか!?」
少しだけ物思いに耽っていた俺のところに、先に行っていたはずのクロノスとホログラムがいつの間にか戻ってきていた。
「いや、その……今日は、色々なところが見れてとても満足したよ! 君こそ、何も分からない俺たちをここまで案内してくれてありがとう。お陰で良い思い出が出来たよ」
辛うじて愛想笑いを浮かべながら今日の感想を伝えると、不安げな表情で俺のことを観ていた見つめてきた小さな案内人の表情が一気に明るくなった。
さすがに『噓に塗り固められた観光地巡りにうんざりしました』とは言えないよな。
「そうでしたか! 今回、お2人の案内役を仰せつかった私にとって、最高の褒め言葉でございます! クロノス様はいかがでしたか?」
「うん、興味深いものが見れて、とても有意義な時間を過ごせたよ。ありがとうね」
(見た目が)小学生の感想とは思えない落ち着いた感想に若干頬を引き攣られたが、褒められたことが嬉しかったらしいホログラムは、満面の笑みでクロノスに近づいた。
「こちらこそ、クロノス様の有意義な時間を作ることが出来て、とても光栄でございます!」
クロノスに嬉しさアピールを惜しげもなく披露したホログラムは、そっと俺とクロノスに距離をとった。
「それでは、お2人とはここでお別れでございます。本日は案内役という素晴らしい大役を最後まで勤めることが出来、とても幸せでした。ご縁がありましたら、またお2人の案内役を勤めさせて頂きたいと思います」
そうか、ホログラムの役目は【日帰りの観光地巡り】だからここまでか。
「あぁ。また縁があったら、その時はよろしくな」
「そうだね。僕たちにとって、君はここに来て初めてまともに会話した物なのだから」
最後の最後に余計なことを言う時の神様に、最後まで営業スマイルを貫いた小さな案内役は、小さなキューブ達に囲まれると弾け飛んで姿を消えた。
「なぁ、クロノス。遊園地に入る前に聞きたいことがある」
儚く消えたホログラムを見届け、そのまま遊園地の中へと入ろうと足を向けようとしたが、どうしても確かめたいことがあった俺は、先を行くクロノスの背中に声をかけた。
すると、俺の声に反応して足を止めたクロノスが、くるりと振り返って無表情を張りつけたまま静かに片手を上げた。
パチン!
上げた手で指を鳴らした瞬間、一瞬でモノクロの世界に変わった。
「何? どうせ、時を止めないと聞けないことでしょ?」
さすが時の神様。 話が早くて助かる。
「そうだな。それじゃあ、単刀直入に言う。クロノス、この世界の観光地は……全部ホログラムなのか?」
今日、俺たちが巡った観光地は【神社】と【城】、そして目の前にある【遊園地】だ。
遊園地に関しては、今から足を踏み入れるから確証が無い。
しかし、その前に訪れた2ヶ所の観光地で俺は1つの推測を立てた。
『この世界の観光地は、全てライフウォッチに造られたホログラムではないか?』と。
「そうだよ」
やっぱり、か。
端的に言われた答えに僅かばかり溜息をつくと、眼光を鋭く神様を睨み付けた。
「だとしたら、どうして噓で塗り固める必要がある? 特に、今日行った神社や城跡は、この世界にも現存しているはずだろ? わざわざ偽装する必要がないはずだ」
そうだ、後世に残すべき歴史的建造物や古くから残っている建物など、ホログラムに頼らなくても観光地に出来る場所は数多くあるはずだ。
「そうだね。確かに観光客を呼ぶに相応しい場所はあるよ……いや、正確にはあっただね」
「あった?」
どういうことだ?
首を傾げる俺に、時の神様の口角が不気味に上がった。
「この世界の観光地って、律のいた世界の人間にとって価値があって観光地にするべき場所でも、この世界に住んでいる人間達が無価値と判断すれば、例え人類にとって重要な場所だろうとも、未来に残すべき場所だろとも観光地にはしないんだよ。逆に、価値があると判断すれば、その場所が歴史も何もない場所でも、この世界に住んでいる人間達は喜んで観光地として仕立て上げるのさ。今日行った神社やお城みたいにね」
「!?」
『どうせ、観光客の為に神社を建てるなら、あちこち行かずに住むように、1カ所にまとめて参拝出来るようにして欲しいな』
神社を訪れた時にクロノスの言ったことは、そういうことだったのか。
てっきり、この世界の住民達にとっての神社の扱いのことだと思って絶句していたが……まさか、この世界の観光地全てが神社と同じ扱いだったとは!
この世界の住民達は一体何を考えているんだ!?
「……ちなみに、この世界の人間にとって無価値と判断されたものってどうなるんだ?」
「そんなの、壊すに決まってるじゃん。無価値と判断されたんだから、わざわざ残す必要も無いみたいだよ」
「っ!?」
苦笑いを浮かべる時の神様から齎された真実に、この世界の住民達が犯した愚行に怒りを覚えた俺は、それを抑えるようにグッと片手を握り締めると顔を俯かせて強く目を瞑った。
信じられるかよ、観光客の為ならば後世に残すべき遺産さえも壊すなんて。
「だとしても俺は、全てがハッタリで造られたものを観光地にするなんて、やっぱりダメと思う。多少の誇大広告ならまだしも、全部が全部を噓で塗り固めるなんて、そんなの詐欺と変わらない。それに……」
怒りで沸騰した頭を冷やし、目を開けながらゆっくりと顔を上げると、努めて冷静な口調で疑問を目の前の神様に投げかけた。
「この世界の住人達は、訪れた観光客に対して罪悪感が無いのか?」
むしろ、噓が明るみに出た時、この世界の住民達は観光客に対してどう落とし前をつけるつもりなんだ?
「そんなの、思わないに決まってるじゃないか。だって、この世界の人間にとっては噓の方が、観光客にとって価値があると判断したんだから。実際、観光客には噓の観光地の方が【魅力】ってものを感じているしね。それに、この世界の科学技術をもってすれば、噓が晒されることなんて絶対無いと思うよ」
「絶対って……」
「そもそも、観光客に対して【罪悪感】って言うの? そんなものがあったら、最初からライフウォッチを使ってホログラムで観光地なんて造らないよ」
「それも、そうか……」
確かに、そんな感情が残っていたら、後世に残すべき建造物を丸ごと無くすことも、縁もゆかりの無い場所に神社やお城を建造することも無かったはず。
「要はさ、この世界を訪れた観光客が【楽しい】って感情を抱いてくれたら、インチキまがいの観光地でも別に構わないんだと思うよ」
ショタ神様の不気味な笑みを前に、俺は両手に拳を作りながら下唇を噛むことしか出来なかった。
「……なぁ、どうしてそこまでして観光客に尽くそうとするんだ?」
気持ちが落ち着いたタイミングで視線を真っ直ぐに戻しながら問いかけると、目の前の神様の表情が不気味な笑みから少しだけ真面目なものに変わった。
「それが……この世界にとって重要なことだからだよ」
「重要?」
観光客に良い顔することが、この世界で重要なこと?
「まぁ、この世界に来て4日しか経っていない律に言ったところで、単に混乱させるだけだからこれ以上は言わないけど。何だったら、調べればみればいいよ」
「調べる? それってつまり、ライフウォッチに聞けってことか?」
調べる物をするにはうってつけの代物だからな。
「ふ~ん……ちなみに、律の世界ってそんなお手軽に【国家機密】とか【個人情報】って呼ばれるものを閲覧出来るの?」
「出来たら俺は間違いなく捕まる」
なるほど、そういうことか。
にっこりスマイルのクロノスが言いたいことが理解出来た俺は、本日何度目かの溜息をついた。
何となく気付いてはいたが……どうやら、ホログラムとライフウォッチを使って観光客を楽しませる本当の目的は、この世界にとって機密情報にあたるらしい。
だが、クロノスが『調べれてみればいい』って言ったってことは、この世界にはライフウォッチ以外に調べる手段があるということだ。
俺のいた世界でインターネット以外の調べる方法と言えば……やっぱりアレだよな。
少しアナログな方法になる上に、アレが集まる場所がこの世界にあるかどうか、今のところ分からないが……もしあったとすれば、きっと何かしらの手がかりがあるはず。
「律、聞きたいことはそれだけ? そろそろ【テーマパーク】って呼ばれる場所に行ってみたいんだけど」
おっと、ショタ神様が可愛らしく拗ねてるな。
まぁ、明日になれば分かるだろう。
「あぁ、もう十分だ。 悪かったな、引き留めるような真似をして」
「別に。それじゃあ、時を戻して中に入ろうか……あっ」
「どうした、クロノス?」
「言い忘れてたけど、今日はこの中にあるホテルに泊まることになってたから」
「えっ!? 今日は日帰りじゃなかったのか!?」
「フフッ、本当はそのつもりだったんだけど、ホログラムと話してたら興味が湧いたから変えちゃった」
パチン!
時の流れる色づくの世界に戻った俺は、クロノスに手を引かれながら、この世界の遊園地にライフウォッチ翳して入った。
旅行4日目
今日は旅行らしくこの世界の観光地を巡った。
この世界の乗り物に最初はテンションを上がっていたが、この世界の【観光地】と呼ばれる場所が、全てがライフウォッチによって作られたホログラムだという事実を知ってからは、心底から楽しめなくなった。
どうやら、この世界の住人達は、俺がいた世界の住人達に比べると色々と破綻しているらしく、重要文化財であっても世界遺産だろうが、無価値を理由に容赦なく壊し、価値があると判断すれば噓偽りで塗り固められた張りぼての観光地を喜んで造るらしい。
正直、この世界がこれから辿る可能性が一番高い未来だと考えると少しだけ頭が痛くなってきた。
だが、この世界にとって観光客はとても重要視されているらしく、特に【楽しませる】ことに並々ならぬ拘りを持っているらしい。
どうして観光客を楽しませることに執着しているのか今の俺には分からないが……まぁ、明日になれば分かるだろう。
ちなみに、最後に訪れたテーマパークのアトラクションは思った以上に楽しめたし、クロノスの気まぐれにより急遽泊まることになったホテルは、全室個室で備え付けられているダブルベッドは最高だった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
加筆修正しました。よろしくお願いします。




