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『アルマの預かり所』

ココカカ村の商店通りは丘の麓、外周をぐるりと一周している

日用品や食料、冒険に必要な装備は商店通りで一通り揃えることができる


冒険者の殆どは丘の中腹で寝泊まりをし、会館で依頼を探し、時には直接依頼を受けて麓の商店通りまで降り準備をする

その為商店通りには冒険者の道具を預かる倉庫も幾つかある


サンは階段を下り商店通りの店を幾つか周った後、南にある預かり所『箱根屋』に来ていた

ココカカ村の中でも多くの木が残っている南側、その木と魔力を使ったギミックで大きな倉庫を作り上げているのが『箱根屋』の特徴である


木をくり抜いてできた受付の中で少年が本を読んでいる

「アルマはいるか」

サンが声をかけるとはっとして少年は顔をあげた

が、驚いた顔はすぐにほころんだんだ

「サンだ!珍しい!」

「人を珍獣みたいに言うな、今日は客だ」

「あ、失礼しました!アルマさんですね、今呼んできます!えっとしばらくお時間頂くかもしれないので、そちらでお待ち下さい!」

ぺこりと一礼すると少年は手に持った鈴をリンと鳴らしながら木のアーチへと走って行く


木々の屋根に囲われた『箱根屋』の待合所には大きな切り株のテーブルに小さな切り株の椅子が拵えられており、自然光の降り注ぐ中に花や緑が咲き誇っている

どこか『エルフの里』を思わせるが、それもそのはずで『箱根屋』の主人アルマは生粋のエルフである


サンはアルマを待つ間に冒険者会館で借りた【オウル山のマップ】と【オウル山調査記録】に目を通していた

オウル山は新大陸発見後、最初期に踏破された山だ

未だに新たなダンジョン、遺跡や魔石が見つかるが冒険者会館による危険度はDランクである

もちろん舗装された道などはなく、あるのは十年かけてできた簡易な登山道だけ

しかし新大陸の危険度アベレージがCオーバーというからクエストとしては優しい部類だろう

目的地の山頂にも今はちょっとした小屋があり、ロング(長期依頼)の冒険者が滞在する事もできるらしい


しばらく調査記録を読み込んでいたサンは【オウル山調査記録】に少しの疑問を覚える

会館で借りた記録書は今までの調査団が記した報告書のまとめである

第一回から第五回の大規模調査を経て山にいる魔獣や、遺跡内部のギミック、発掘される魔石や薬草などは細かく記されており、遺跡や採掘品から予想されるかつての信仰など調査報告としてはしっかりとまとまっている

だがオウル山の頂、山頂の記述が少ない

魔女が『月の儀式』を行うにのであればそれなりの力場があるはずだ

しかし小屋がある以外に特出すべきことは記されていない


さらに気になるのは五回の調査には同じ魔女が関わっているという点だ

もちろん魔法や魔術に関しては魔女が特権的専門性を持っている

そして魔法や魔術に関しては秘密主義なのも魔女である

かつての魔女への扱いの名残りであり仕方ないことではある


何か隠された秘密がありそうだ

サンは依頼主のリズの姿を思い出す

非道な企みを持つような人物には見えない

報酬銀60枚は一人か多くても二人分の相場

魔女の弟子というのだから魔法、魔術の扱いは得意だろう、それなりに自衛の能力があるのかもしれない

準備があると飛び出して行った、冒険者会館以外にも寄る場所があるのだろう、例えば儀式に必要な物の調達…

『月の儀式』については知る必要がありそうだ


とはいえ依頼を断る気にもならない。オウル山の山頂には何があるのか『月の儀式』とは何なのかこの目で見てみたい。普段こなすお使いのようなクエストでは得れない魅力をサンは確かに感じていた

再び調査記録に目を落とす

オウル山魔法調査主任『魔女ダルク・アリシア』

この名前は覚えておこう


マップと調査記録を広げクエストに必要な物を書き出し終えた頃、後ろに人がいるのに気付く

背のすらっとした金髪の美女、目が碧みがかっており耳はまさしくエルフ耳

『箱根屋』の女主人アルマだ


「熱心に何か読んでいると思ったら、それは調査記録ですね。山籠りでもするのですか?」

「しないよ、エルフじゃないんだから」

「ふふ、それは失礼ですよサン。取り敢えず紅茶でも如何かしら」

アルマはそう言いながら椅子につく

先程の少年が飲み物を運んで来た

「新大陸でも美味しい茶葉が採れるようになったの。東の村で農園が成功したのね、嬉しいニュースだわ」

アルマは紅茶に口をつける

花の庭園、切り株のテーブルに紅茶をたしなむ美しいエルフ

アルマと話している時間は進みが遅い気がしてくる

合わせてサンも紅茶をすする

しっかりと香りのついた華やかな味だ

「うん美味い、喫茶店としてもいけるぜこれなら」

「それは誉めているのかしらね、でもお茶請けもあるから喫茶店というのも頷けるわ」

いつのまにかテーブルには木の皿に焼き菓子が盛られている

サンは一つ頬張る

「ほお、これは上等なクッキーだ、輸入品か?」

「あら嬉しいわ、私の手作りよ。明日のために量産しているの」

明日は安息日、冒険に出るものは極端に減り皆村での時間を大事にする

その分出店などは稼ぎ時で、商店通りはちょっとしたお祭り騒ぎになる

アルマは安息日にお茶会を開くことがあるから、そのためのクッキーだろう

「明日はダンも休みなのか?」

「ええ、ミドルに出ているのだけれど今日の夜に帰ってくるわ」

「確か先の村との合同調査だっけ、魔獣地帯の」

「危険だけれど、冒険者は最前線、最先端が好きだから仕方ないわね」

アルマは冒険者のダンと夫婦である、新大陸で出会いこの村で結婚した

ダンは気も腕も良い冒険者で、サンも一時パーティーを組んでいた

しばし紅茶とクッキーを楽しみゆっくりとした時間を楽しむ


「で、今日の要件はこれ、明日の朝出発」

サンは先ほど書いた紙をアルマに渡す

「安息日なのにサンはいないのね、残念ね」

「来週はゆっくりするよ」

「その時には是非お茶会に来てくださいね…あら、いつもより少し多いわね、ミドル?」

アルマは記された紙に目を通す

「ああ、護衛だけどな」

「七日分だと少し大きくなるけど一つにまとめる?それとも小分けにした方が良いかしら」

「うーん、あてがあるから三つくらいに分けておいて欲しい、あてが外れたら自分でまとめるよ」


『箱根屋』に限らず冒険者村の倉庫は預かっている道具、装備以外にも食糧、回復薬、燃料などをまとめて用意してくれる

付き合いが長くなれば依頼書と紙一枚で間違いのない物量を揃えてくれるので重宝する冒険者は多い

『箱根屋』とサンは創業当時からの付き合いで紙一枚と雑談がいつものやり取りである


「依頼書はあるかしら?」

「はいよ」

アルマに依頼書を渡すサン

「…依頼者は女性ね、リズ・アリシアさん、護衛、道案内、儀式ね」

「魔女だからそりゃ女性だよなぁ」

言いながらサンはリズと調査に関わった魔女のファミリーネームが同じ事に気づく

家族とは限らない、師弟関係にあるのかもしれない


「ありがとう確認したわ、それでは責任もって用意しますね。届け先は村の入り口で良いかしら?」

依頼書を返すアルマ

「いや明日は安息日なんだし、朝ここに寄るよ」

「助かるわ、受け付けのテッドが対応するからよろしくね」

アルマの言葉を聞き席を立つサン

まだレインを見つけていない、ゆっくりしている場合ではないのを思い出す

「ああ、それじゃいい安息日を」

「ええ、サンも冒険に幸あれ」


美しいエルフの贈る言葉を背にサンは『箱根屋』を出る


「あ」

サンは振り返りアルマに訪ねる

「さっき食べたクッキーって貰えるくらいあるか?それと胡桃くるみも」

「あるけど明日クエストにもっていくの?」

「いや女将さんのお使い」


『箱根屋』の女主人アルマはにっこり微笑み焼き菓子を取りにアーチの奥に戻っていく


エルフの焼き菓子なら女将さんも満足するだろう

サンはしばし『箱根屋』の前で待つのであった

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