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『牛馬亭の女将』

「女将さーん、お届けものでーす」


『牛馬亭』はサン達が先程までいた『最前線』の姉妹店である

両店とも冒険者酒場兼冒険者宿泊所になっていて主に『最前線』は男性冒険者『牛馬亭』は女性冒険者が宿泊している

『牛馬亭』は丘の中腹西側にあり、下った先の麓では牧場経営もしている。飼われているのは牛と馬

ミルクはもちろん、チーズなどの乳製品もここで作られ、冒険者の馬を預かったり、遠征用の馬を貸し出したりもしており、ココカカ村の冒険者は『牛馬亭』の女将には頭が上がらない

しかし女将は自身が元冒険者だった事もあり面倒見がよく、若手や新人、問題を抱えた冒険者の相談によく乗っていた


「サン、あんたいつから『最前線』の丁稚になったんだ」

「これはギブアンドテイクです、『牛馬亭』に用があって」

「困りごとかい?あんたの困りごとには乗れないと思うけどね」

「人探しです、パーティーの勧誘」

「なら手伝えるかもね、ほら、こっち持ってきな」


サンは酒樽を持ち上げ『牛馬亭』に運び入れる


女将さんが戸を開けてくれる。やはりこの時間だと店に客はいない

「酒樽はそっちに置いてちょうだい」

そう言うと女将は奥の書斎に行ってしまった

サンはぐるりと店内を見渡す

埃ひとつない掃除の行き届いた綺麗な店内だ

『最前線』と違いテーブルに花が拵えている

薄暗く喧騒が『最前線』だとしたら明るく賑やかなのが『牛馬亭』だろう


酒樽をカウンターまで運ぶと女将が戻って来た


「ありがとね、それでどんな人間を探してるんだい?というかあんたも冒険する気になったんだね、ほらサービス」


女将はサンをカウンターに促しグラスにエールを注いで渡す

手には台帳を持っている


「依頼を受けたんだよ。護衛。オウル山だからそんな遠くもない」

サンはグラスを煽りながら答える

「なんだい自分でどっか行くんじゃないのかい、手伝いばっかでつまらなくないかい」

「これでも生きてはいけるからね、お陰様で」

「まああんたは腕はいいから紹介するのもやぶさかじゃないけどさ、それでどんな人物だい?斥候、護衛、運び屋、地図師、罠師、何でも屋どれだい?ああ何でも屋はあんたか」

女将は言いながら台帳をぺらぺらとめくっている

「それなんだけど、専門職を七日間雇うとなると費用結構かかるでしょ」

「そうね最低でも一日銀五枚、ギルド通すから手数料も必要よ、職業やランクにもよるけど…七日で銀40枚から50枚くらいじゃない」

「報酬は貰えるから払えなくはないけど…もう少し抑えたいな」

「あんたもギルドに入ればいいじゃない、そしたら30枚くらいにはなるでしょ、メンバー依頼で」

「ギルドは俺には合わないの、一度失敗してるし」

「サン、良くお聞き!一度の失敗がなんだい!いいかい人間は失敗して学ぶんだ、なんなら本番の為に失敗をするんだ、あんたは最近日銭だけを稼いで」「すいません、すいません、ちゃんと失敗しますから」

サンは慌てて女将の言葉を遮る

「ちゃんと失敗ってあんたわかってないだろ」

このままズルズルと説教に話題がいきかねない、女将は面倒見が良すぎるのだろう

「理解してます、ちゃんと、少しずつですけど」

サンは言葉を選び女将を伺う

「本当かい、あたしは心配してるんだからね。…で、なんだっけ、仲間探しだっけ?」

「そうです、それです、とにかく専門職じゃなくて、新人とか、ソロの奴を探してるんだ」

ようやく本題に戻り胸を撫で下ろすサン

「今日日そんな都合良い冒険者いないわよ、新人だってパーティー組んだりギルドに入ったりしているんだから」 

「最近ココカカ村に来た冒険者はどう?女将さん心当たりない?」

「最近ね…ああ、いるわね、あんた良く知ってるね」

「おやっさんからの口利き」

「あら、うちの旦那の。相変わらず良く見てるわね、あの人も」

「それで声かけれそうだったら誘ってみようかなと」

「ええ、確かにいるわよ、最近来た冒険者」

サンは銀を一枚カウンターに置く

「あら半銀でいいのに、うちの宿泊者だし」

「質の良い情報には価値をつけないとって女将さんに教わったよ」

「それじゃ頂きます」

女将は台帳の一番新しいページをめくる

「レインちゃんっていう女性冒険者がまだパーティー組まずにいるわね。新人じゃないわね、2周前に一人でココカカ村に到着。前の村の工房『魔石屋』さんの紹介でうちに泊まっているわ。村に来てからは採取依頼や一人でダンジョンに潜っている。でもクエスト頻度は高くないわね、まだ6回だけ。基本的には魔石の採取みたいね。『魔石屋』さんやこの村の工房にも素材を卸してる。ソロだから数は多くないけれど二等級の魔石も見つけてるわ」


さすが女将の情報だ。この村の冒険者に一番詳しいのは冒険者会館でもギルド会館でもなく『牛馬亭』の女将だろう

「剣士?」

「じゃないわね、レンジャーかシーフって感じ」

「それならスカウト(斥候)ができるかもしれない」

「でも彼女クエストは全てショート(一日依頼)よミドル(数日依頼)は受けたことなし。何か理由があるかもしれないわね」

「ここからは直接話をしないと、だな」

「今日は冒険に出てないみたいだから村の何処かにいるんじゃないかしら」

「探さなきゃダメかぁ、此処で待ってたら会えない?」

「いいけど、パーティー依頼は早くした方が良いんじゃない?」

「人相というか、特徴を知りたいです」

「栗色の髪のポニーテールー、腰に短剣二つ、今日は装備してないかもしれないけれど革手袋にレザーマント、そして美少女よ」

女将はにっこりと笑う

「把握、把握。ちょっと散歩していなかったらまた来るから」

「ならついでに胡桃とクッキーを買ってきてちょうだいな」

「…はいよ」


女将のお使いと、まだ見ぬレインを探しにサンは『牛馬亭』を後にした

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